進化論に対する疑問をコンピュータアルゴリズムで解釈する~『人口生命』というアプローチ
計算しないで進化は論じられない」 コンピュータで生命想像を研究する「人工生命」の方法で、進化について解明をはかる。1998年刊
人口生命とは
生化学やコンピュータ上のモデルやロボットを使って、生命をシミュレーションすることで、生命に関するシステム(生命プロセスと進化)を研究する分野。
進化論に関する疑問
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突然変異はたいて有害で、それを取り除く自然選択が働いている。突然変異によって優れたものが生まれたとしても、それは孤独で相手もいないし、子孫が増えるとは考えにくい。
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人間は動植物などの進化を説明する学説には従わないのではないか?なぜなら、人間は自由意志で自己を向上させることができ、これによって人間に固有な高度の精神活動や文化が発展してきたからである。
(3ページより)
星野氏はこの疑問をコンピュータで生命現象を研究する「人口生命」というアプローチで実際に計算を行ない以下の解釈を得る
疑問①に対する解釈
突然変異を固体として捉えるのでなく、集団として捉えると突然変異を進化に結び付けられる。具体的にはグラフ(b)は点で捉えると進化は集積しないが、グラフ(b)を幅をもった線として捉えるとグラフ(A)と同様の働きをする。
疑問②に対する解釈
「囚人のジレンマゲーム」を無限に続け、戦略とそのリターンがどう変化するかでモデル化する。「囚人のジレンマゲーム」とは短期的には利己的な行動がリターン最大化を発生させるが長期的には損失を生じさせる。「自分からは協調的に行動し、相手が利己的に行動した場合にのみ報復する」しっペ返し戦略で価値が最大化できる。
アルゴリズムという還元的なアプローチ
星野氏は直接見る事も実験検証もできない進化のメカニズムを人口生命のアプローチで計算しその有効性を証明する。ロボットとシミュレーションによって2つの疑問を計算、進化論の有効性を遺伝子の突然変異というレベルで統一的に検証したと言える。
それですべて説明できるか?
一方であらあゆる事象が階層性を持ち、「多段創発とはある有効な仕掛けが下位の運動から出現したとき、それを積木にしてそれ以上のレベルへジャンプし、より大きな構造を創発させる」(101ページ)は極めて難しいという。
具体的には「自己増殖する高分子とこれらの動物との間には、細胞の獲得」という多段創発があり、これは人口生命ではシミュレートできないと言う。
本書103ページ
認識は階層性を持つ
我々は一つの事象を認識する時、個別的・物語的にも統一的・原理的・一般的にも捉えられる。認識は階層性を持つという事である。人口生命は遺伝子の進化は説明できても、その機能性の発露を説明するには階層が合致していないという事。
階層性を乗り越える事には発想の飛躍と多大なエネルギーが必要である事がわかる。人口生命によって進化を分析する事はこの事を教えてくれる。
蛇足
学問の方法論も個別的物語的VS統一的・原理的・一般的な構造を持つ。
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