毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

超自然的行為者は心理的錯覚である、進化心理学のアプローチ ~ ヒトは「神」と呼ぶ

 

ヒトはなぜ神を信じるのか―信仰する本能

なぜ人生に運命を感じるのか、なぜ死んでも心は残ると思うのか、なぜ自然現象に意味を見出してしまうのか、進化心理学が解き明かす神と宗教の起源。

 f:id:kocho-3:20140908085050p:plain

 

本書は「神」を進化心理学のアプローチで「心理的錯覚」と捉える。進化心理学とはヒトの心理メカニズムの多くは進化生物学の意味で生物学的適応であると仮定しヒトの心理を研究する。

心の論理

他者の心の状態(意図、欲求、願望、目的、知識、思考、推測、信念、感情)を読み取る脳ろ力のことであり、他者に共感や感情移入をしたり、他者の視点にたってものを考えるうえで基礎となる能力のことである。・・・ヒトとチンパンジーはおよそ600万年前に共通の祖先から分かれてそれぞれの進化の道をたどってきたが、ヒトだけに「心の理論」があるということは、それはこの600万年で獲得されてきた能力だということになる。

心の論理が心理的錯覚としての神を生む

ヒトには、どの文化や社会にも、宗教、神や霊、あるいはそれらに類する超自然的な行為者がいる。それはヒトのひとつの大きな特徴である。本書の著者の)べリングは、これらの神や霊、超自然的行為者が実はこの「心の理論」によって生み出された(進化論的な意味での)「適応的」錯覚なのだと主張する。(254ページ、訳者鈴木氏によるあとがきより)

錯覚としての神の役割

ヒトは心の論理を拡張する事によって、「罰を与えることのできる超事前的行為者が自分を見ている、自分のことを知っているという感覚がもたらす抑制効果である。それが集団を形成し他の動物種以上に生物学的に繁栄する事を可能とした。文化、歴史によってはそれを神と呼んだという事になる。

心理的錯覚としての神は必要か?

現代の世界では、行動を抑制する効果的な装置として、社会保険番号、インターネット、隠しカメラ、発信者のアドレス、指紋鑑定音声認識ソフト、「嘘発見器」、顔認識、DNA鑑定、筆跡鑑定といった社会的追跡技術がいくらでもある。現代にはこうした技術があるのだから、ヴォーテールの「もし神が存在しなかったら、神を発明する必要がある」という言葉は、少なくとも科学技術の発展の著しい先進国においては、もはや適切ではなくあっている。・・・しかし一方では、ヒトの進化はヒトの科学技術においつくどころではなく、神の適応的錯覚は、心の理論が私たちヒトという種の認知的設計図の一部である限り生き残り続ける。・・・私たちはヒトという種の歴史において、(心理的錯覚としての)個人的な神を不必要で、ありえないものとする重大な科学的論議に始めて直面する世代である。(254ページ)

 

我々は神を持ち出さなくとも、法律やテクノロジーで抑制する事を身につけた。そしてその範囲はどんどん広がっている。それでも常に「心理的錯覚」の方が上手く抑制効果をもたらす局面は残っているという事と考えた。

蛇足

我々は何にでも因果律を見出してしまう。