ハーバードMBAが教えてくれた、福島第二原発とリーダーシップ~『ハーバードでいちばん人気の国・日本』佐藤知恵
佐藤氏はビジネス作家、福島第二原発を救った「チーム増田」まで、日本人が想像できないほど、ハーバード大学をいま「日本」が席巻している! (2016)
福島第二原発も一つ間違えれば、メルトダウンを起こす恐れがあった、ということである。それを増田所長と作業員がすんでのところで食い止めた。・・・福島第二原発では、最初に「止める」ことには成功したが、「冷やす」ための電源が喪失していた。1,2,4号機に電気を送るためには、残された二つの電源からケーブルを敷設して、冷却機能を復旧させなければならない。
2日で9㌔の電源ケーブル敷設に成功
ケーブルの1本の長さが200メートル、重さは1トンもある。200人の作業員たちは、それぞれケーブルを2メートル間隔でもち、数百メートルの距離を運んでつなぐ、という作業を繰り返した。12日の日中から13日の深夜まで、不眠不休で作業を続け、最終的に作業員が引いたケーブルの長さは9キロメートル。通常なら重機を使っても1か月はかかる作業だ。それを人間の手だけで、2日間でやり遂げたことになる。(205ページ)
センスメーキング
増田さん(福島第二原発所長)は、作業員でごった返す緊急時対応センターで、ホワイトボードにひたすら数字と図を書いていったのです。書いたのは余震の頻度とマグニュチュード、それと危険度が減っていることを示す図です。つまり「私にも何が起こっているかわからないが、少なくともいま私が知っていることはこれだ」と作業員と情報を共有したのです。これを社会心理学では、「センスメーキング」(sense making)といいます。
センスメーキングとは、置かれた状況を能動的に観察し、理解しようとすること。これは、その場にいる私たちが同じ情報を共有し、次のアクションを考えるのに役立つ。数字やグラフなど、客観的な情報は人を落ち着かせる効果があるからだ。(208ページ)
現場のリーダーシップ
危機を回避するまでリーダーである自分は自席から絶対に動かない、明確な指揮系統を確立する、ホワイトボードに数字を書く、戦略を柔軟に変えながら適切な指示を出す、作業員全員に役割を与える、といった行動は(リーダーシップの)「直観」によるところが大きい。(209ページ)
ハーバード経営大学院というところ
福島第二原発がメルトダウンの危機にあり、それを現場の力で回避していたことを初めて知る。電源ケーブルを写真で見ると簡単な様に見えるが、人力で都合9㎞敷設したという。増田所長のリーダーシップによる所が大きいことは言うまでもない。
福島第二原発のケースからは「センスメーキング」というロジックが導き出される。ハーバード経営大学院の役割は、「世界を変革するリーダーを育成する教育機関」(31ページ)である。このケースの執筆者であるハーバードのグラティ教授は「私たちはリーダーシップを教えている」(211ページ)と言い切る。
我々が福島第二原発のケースから学ぶべきは「センスメーキング」というリーダーシップスタイルと、リーダーシップとは習得可能なものである、という事である。
本書のタイトルから日本称賛とだけ読んではもったいない。ハーバードMBAはリーダーシップは教えられると考え、そして世界中から事例を収集しているという凄みに気づくべきである。日本人も素晴らしいが、世界にも素晴らしい人は沢山いる。日本人も知らない福島第二原発の原田所長の経験はハーバードでは分析され、教えられている。
蛇足
リーダーシップは学習できる
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