毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

自分でルールを考え、行動してみる!~『ゼロからトースターを作ってみた結果』T・トウェイツ(2015)

 ゼロからトースターを作ってみた結果 (新潮文庫)

トースターをまったくのゼロから、つまり原材料から作ることは可能なのか? ふと思い立った著者が鉱山で手に入れた鉄鉱石と銅から鉄と銅線を作り、じゃがいものでんぷんからプラスチックを作るべく七転八倒。集めた部品を組み立ててみて初めて実感できたこととは。(2015)

  

 

鉄器時代から産業革命まで費やした時間の長さ

ご存じの通り、金属は熱したり冷ましたりすることで、物理的に精製されます。一方でプラスチックは、それに加えて、化学的に結合した分子を分離させ、再び結合させるといったプロセスを経る必要があります。そして、その工程においては、温度、圧力、化学薬品といったプロセスを経る必要があります。・・・人間は鉄器時代から鉄を作ってきましたが、プラスチップについてはまだ100年に満たない歴史しかありません。(というより、一般的にプラスチックが生産されるようになったのはここ60年ぐらいなのです。(119ページ)

廃棄プラスチックを活用してもいいか?

近年、地質学会では、新しい時代‐「人類の時代(アントロポセン)」-の幕開けを宣言すべきか否かという、激しい論議が行われている。・・・世界の地質は人間の手によって大きく変化しており、ゆえに、そうした際立った変化がみられる産業革命以降の時代を「人類の時代」と称し、他の地質学的な時代区分から差別化して考えよう、というのがこの論議の出発点だ。遠い未来の地質学者たちが現代の地層を調べたとすると、多くの種の化石の消滅、放射性物質の急激な増大、「新たな分子」の出現、といった変化を検知するであろう。そして、その「分子」の正体は、僕たちが廃棄した(ポリプロピレンなどの)化学製品だ。(126ページ)

平凡なトースターを作るということ

僕らがどれだけ他人に依存して生きているかということを教えてくれた。時給自足や地産地消という考えに憧れはあるけれども、同時にそこには不条理も存在する。・・・さらに言うなら、今回僕は、自分たちが普段目にしているものは、長い歴史、多くの努力と知恵、そして途方もない量の燃料と材料の結晶であることを痛感させられた。(185ページ)

出来上がったトースター

 

著者のトウェイツは自分でトースターを作ろうと決める。ルールとして①地球が算出する原料を使うこと、②産業革命以前の手法を使うこと、を設定する。出来上がったトースターを作るのに直接費として£1187.54(=約15万円)かかる。安いトースターの100個分にも相当する。かつ、外見からして十分と言える代物ではなかった。

プラスチックを作ることはできない

 

プラスチック一つをとってみても、一人で製造することは事実上できない。彼は廃プラスチックを再利用する。廃プラスチックも地質的な年代に立てば、資源であろうという拡大解釈を行う。

私は本書の魅力の本質は、自分でルールを決めることにあるのではないか、と思う。ルールを自分で決め、ルールを守れなければ自分でルールを拡大解釈する。産業革命以前にプラスチックは存在しないのだから作る方法も存在していない。最初のルールではプラスチックは作れない。廃プラスチックもまた地球資源だと解釈して再利用することで切り抜ける。

こうして出来上がったトースターは、他のトースターとは比較にならないオリジナリティを持つ。著者は、平凡な工業製品にも長い人類の英知が使われていること、人は他人に依存して活きていること、を象徴するトースターを作ることに成功しているのである。ここには自分でルールを決め、自分で行動したからこそ達成できる世界があった。

蛇足

 

自分でルールを決め、行動する世界

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