毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

レバノン杉とギルガメッシュの関係

 TVで報道される中東の国々は茶色の乾燥した地域という印象を持つ一方、最古の都市文明が発展した地域でもある。このギャップが解消できないでいた。

   

森と文明の物語―環境考古学は語る (ちくま新書)

安田氏は環境考古学の研究者。花粉は、スポロポレニンと呼ばれる化学的に安定した化合物で保護されており、地表の堆積物を地下に掘り進み、採取した土に含まれる花粉を分析する。これにより「過去の森の変遷の様子を復元できる。」(34ページ)植物の分布は気候や土地の条件に強く支配される事から当時の環境を推計できると説明する。

 

レバノン杉

マツの仲間の針葉樹、レバノンやトルコの地中海沿岸の産地に分布、40メートル程度の高さになり、硬く、香柏 ともいわれ良い香りがするため古代より伐採が進んでおり、現在はレバノンなどの一部に自生するのみ。レバノンの国旗に描かれている。

花粉の分布で見るレバノンの植生の変化

安田氏の分析によれば「BC3000年頃レバノンではナラの森林の伐採が急速に進んだ。レバノン杉はBC3700頃には伐採が進んで極めて少なくなっていた。」いまだに植生が回復しないのは伐採の影響もさる事ながら、私は完新世の最も温暖であった気候最温暖期(BC4,000~BC2,000)の終焉による乾燥化の影響が大きいと認識した。現在この地域の乾燥化が進んだのは気象変動が最大の要因と言えよう。

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森林の破ギルガメシュ壊の王ギルガメッシュ

シュメール王朝時代のウルク第一王朝の伝説的な王(在位:BC2,600頃?)ギルガメッシュは叙事詩の中で「レバノン杉を伐採する事で自然の奴隷の状態から人間を開放するために」半身半獣の森の神フンババと対決し、青銅の武器を持つギルガメッシュは退治に成功する。

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 「ギルガメッシュのたたかい」より

フンババ退治は、人類が森林破壊への文明への道を選択した人類史における重要な分岐点であったといえよう。(17ページ)