毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

国家公務員・総合職試験に英語

 国家公務員・総合職試験

TOEFLが導入される事に決まったとの事である。そもそも総合職試験とは?と調べたらかつての国家公務員Ⅰ種試験でいわゆるキャリア官僚を選抜する試験の事だった。キャリア官僚と接点もなく役人の世界がどういう世界かと思って手にとったのが本書。

財務官僚の出世と人事 (文春新書)  

著者の岸氏は新聞記者を経て経済ジャーナリスト。本書は2010年の発刊。著者は大蔵省、財務省の担当記者を長らく努めていた経験から財務省のキャリア官僚の人事に関する情報をまとめている。役人のトップに君臨する財務官僚はここ数年の実績では15-20名が採用される。岸氏の論に従えば10:80:10の比率になるそうである。上位10%が優秀、80%が普通、10%ができない、となる。前後数年の中から2-3名が官僚のトップを目指して社内で競争する事になる。

1996年の大蔵省接待問題

1996年住専国会といわれたバブル崩壊の最終局面で大蔵官僚が金融機関などから過剰接待を受けているというのが問題視され当時の事務次官が引責するなどの事態となった。それ以上にキャリア官僚に関するイメージを悪化させた。役人のトップが財務省、そのトップが主計局、日本の官僚組織の頂点について当時の状況を以下の様に分析する。

「清濁併せ呑んで予算をつけてやったという太っ腹な面が、主計官僚の力量を推し量る人物評価につながり、そういう力技のできる大蔵官僚が出世の階段を駆け上がってきた。(中略)日本の学歴社会の最上位に位置するエリート集団だけに、ある種の閉鎖性がディスインテリ意識を助長していった面は否めない。(123ページ)

岸氏は宮澤喜一元首相のインタビューを使って分析する。ディスインフレとは宮澤氏の造語でエリートが清濁併せ呑む"ワル"のイメージで大物感を演出する事だそうである。

「(主計局は)ワル願望の蔓延によって仕事そのものが空洞化し、実力が落ちていることに気づかなかった、(中略)おそらく70年代半ば以降の財政再建路線と一致」」(124ページ)と続ける。

高度成長期の終焉

高度成長期は70年代初等に終了していた。米国の経済成長がピークを売ったのも70年代中頃である。日本経済が高度経済成長している時は資金が逼迫をしており国家財政の配分を行う主計局にも意味があったのであろう。第一次オイルショック以降の赤字国債発行後の主計局の役割は財源確保=権限の確保、という内向きのインセンティブにシフトしてしまったと思う。私はこれが「仕事そのものの空洞化」の原因だと思う。

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http://sakura.canvas.ne.jp/spr/h-minami/note-sengonihonkeizairon.htm

TOEFLの影響

東大法学部の秀才にとってはTOEFLも皆良いスコアをマークするであろう。これにより大学生のTOEFL平均スコア向上には貢献すると思うが財務省入省のエリートの選抜には中立であろう。

蛇足

キャリア官僚の出世には入所時の試験の順番は関係なく、仕事の実績、人柄、バランス感覚などで決まるそうである、ある意味普通の組織と変わらない。