毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

軍事とエネルギーの関係、中世の十字軍が明確にするもの

 5日でわかる世界歴史 増補版 (小学館文庫)

和仁氏は映画監督などの経験、1月8日エピクロスにつづいての登場。「長年にわたって動物と人間を見つめてきた和仁進が、6千年を超える文明の歴史」を俯瞰する。

十字軍

中世西ヨーロッパのキリスト教、主にカトリック教会の諸国が、聖地エルサレムイスラム教諸国から奪還することを目的に派遣した遠征軍のことである。東ローマ帝国皇帝アレクシオス1世コムネノスの依頼により、1095年にローマ教皇ウルバヌス2世がキリスト教徒に対し、イスラム教徒に対する軍事行動を呼びかけ、参加者には免償(罪の償いの免除)が与えられると宣言した。この呼びかけにこたえた騎士たちは1096年にエルサレム遠征の軍を起こした。(wiki)

以来1270年の第8回まで何と200年!にわたって行われた。

先進世界イスラムを驚かせた鉄の力

十字軍の騎士は、重い鎧に身をかため、みごとな剣をもっていました。白を壊す槌の頭部などにも鉄が豊富に使われていました。イスラム軍最強のトルコ族が、この鉄の威力に、しばしば舌を巻いたのです。それに対応できる鉄を求めて、墓をあばいて先人の剣や武器を掘り出したとさえ伝えられています。既に鉄は、紀元前15世紀ごろからいまのトルコのあたりで精錬の技術が発達し、地中海周辺、オリエントの諸文明に普及したものです。その鉄が二千年以上たったこの時代に、いまさら、そう思われる方もおられるでしょう。(246ページ)

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十字軍の鎧:メイル(mail)と呼ばれる鉄製の輪をつなぎ合わせたチェイン・メイル

幻の戦士たち−立ち読み

先進イスラムの鉄不足

この年月こそ、鉄不足の理由にもなったのです。鉄を高温で精錬するためには、燃料が必要で、まさにその燃料源が諸文明の交代をつらぬいた長い歴史のなかで乏しくなったのです。かつてのオリエント文明シリア西部のレバノン杉など有名な美しい森林に恵まれていました。しかし、鉄だけでなく、ガラスなど、エネルギーを消費する産業が発達するにつれ、木々が切り倒され、エネルギー源としての木材の入手が困難になる地域がでていたのです。これに比べて、ようやくスタートしたばかりのヨーロッパ文明は、豊かな森に囲まれていました。鉄の使用もまだ一般には普及せず、騎士たちは欲しいままに鉄を使っていたのでしょう。(246ページ)

エネルギー問題

人間の文明がくりかえしてきた法則の一つがあります。先進文明が必ず行き詰まってしまう大きな要因がエネルギー問題 なのです。そののち、ヨーロッパでも森の多くが失われ、18世紀には大植林運動が起り、石炭が新たなエネルギーとして利用されるようになりました。また19世紀から20世紀にかけて利用のすすんだ石油が貴重なエネルギー源となり、かつてのイスラム文明圏の多くは産油国として新たな経済成長を指向しています。これらの流れのすべてを通じて、しかし、人間とエネルギーの関係を根本的に解決する知恵を、私たちはもっていません。(247ページ)

蛇足

軍事はエネルギーの勝負、十字軍がこの事にリアリティーを与えてくれる。