現代の旅人から、30世紀の旅人へのメッセージ~『ブルーウォーター・ストーリー―たった一人、ヨットで南極に挑んだ日本人』片岡佳哉死(2015)
ブルーウォーター・ストーリー―たった一人、ヨットで南極に挑んだ日本人
全長7.5メートルという小さなヨットで 、命がけの航海をしていた若者がいた。(2015)
未知の惑星を旅する
1年のうち330日が雨降りという、チリ多島海の中部地域。島々は不気味な濃い紫色にぬれ、奇怪な岩肌をさらし、暗い雨雲の下に続く。焼けただれたように陰惨な斜面、腫瘍のような醜い突起に覆われた山もある。過酷な風雨に浸食された、草も木もない丸裸の虚団な岩からは、命のひとかけらこ感じない。そこはあたかも魔物のすみか。ぞっとするような死の世界。・・・大昔、海底が隆起してアンデスの山々ができた。それらの谷間は氷河に深く浸蝕され、後に海水で埋まり、無数の頂上が島々になった。その水面を、ヨットに乗って旅している。飛行機で山脈を飛ぶようだ。いや、未知の惑星に来ているようだ。(71ページ)
現代社会がすべてではない
ひとりきりで自然の美しさと厳しさの中に生きる間に、感覚がしだいに研ぎ澄まされ、狭い町の常識が地球の常識ではないことを、体の全ての部分で直観したせいかもしれません。人工物のない太洋の真ん中を走りながら、強烈なオレンジに燃える太陽や、海面を銀色に光って吹く風が、はるかなる太古からあると実感したとき、我々の住む現代社会の常識が、40数億年も続く地球の常識ではないことを、心で直接理解したのかもしれません。(219ページ)
裏表紙より
この小さな物語は(実際の出来事なのですが)、30世紀かそれ以降のような遠い未来の人達にも、ぜひ読んでもらいたいものです。というのも、人類と呼ばれる生き物の群れは、青い水の星を飛び出して、宇宙という果てしのない海を、おそらく旅することになるからです。宇宙船に住み、あるいは遠い天体に生れて暮らす、数多くの子供と親たちは、はるかな遠い祖先の星、地球に思いをはせることでしょう。そんな彼らに、この星の7割を覆う海の上が、どんなに驚きと美しさにあふれ、どれほどの感動に満ちているのか、どうしても分かってほしいのです。
片岡氏は全長7.5メートルという小さなヨットで 、命がけの航海をした。太平洋横断、パタゴニアのマゼラン海峡、魔のホーン岬、ついには南極まで決死の単独航海を行っていた。
どうして片岡氏は小さなヨットで南極に挑む必要があったのであろうか?地球の美しさを実感するためである。考えてみれば人類は常に必要のない旅を続けて今に至った。片岡氏が旅をしたのと同様、そこにはさしたる理由は無かった。
なにげなくカバーを外すとそこにはメッセージが書かれていた。30世紀の未来の人達へのメッセージである。片岡氏は30世紀には人類は住み慣れた地球を離れ宇宙を旅していると考える。宇宙に打って出る必然性はあるか?人類はただ美しい宇宙を見てみたい、未知の領域に行ってみたい、という思いから旅をしているはずである。片岡氏の思いをしっかり受け止めました。
蛇足
片岡氏の挑戦は1980年から1990年、本書の出版が2015年、出版が遅れた経緯は詳らかではない。出版社は『海の恐怖」というトラウマから二十数年かけて解放された』とだけ説明する。
蛇足の蛇足
人類は旅する生き物
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