資本主義の根本”セイの法則”とフランス革命の関係から見えるもの~『 株式会社の終焉』水野和夫氏
株式会社、厳密にいえば、(新しい価値の創出ではなく)現金配当(だけを)をしている株式会社に、残されている時間はあまりない。(2016)
自動車と家電
この(自動車と家電の)二つの産業で不祥事(ドイツのフォルクスワーゲンと日本の東芝)で不祥事が起きたのは、決して偶然ではありません。
近代においては、自動車産業と電機機械産業は特別の産業でした。・・・自動車の出現によって、いつでもどこでも行きたいという個人レベルの「より遠く」、「より速く」の欲求の実現へと進んでいきました。さらに家電産業は、個人に「より合理的に」を付加してくれました。最初はTV、そして、次にPC、最近ではスマホが、どこに行けば何があるかを教えてくれます。
つまり、この二つの産業は、個々人が自由に欲望を追求していくことが認められる民主主義の時代にあって、それをかなえてくれる特別な産業となったのです。
そして、日本とドイツという、その産業において最も成功を治めた特別な国(マイナス金利の国)で不祥事が起きた。これは近代の限界を示す、なによりの証拠です。(143ページ)
セイの法則の終焉
本書で主張したいのは、あらゆる思考のベースを、近代システムのベースである「より速く、より遠く、より合理的に」から、「よりゆっくり、より近く、より寛容に」にしていくことです。・・・企業が利益を確保するのは、消費者があれもほしい、これもはやくほしいといっているときです。・・・もはや多くの人は、あれもこれもほしいとはいっていないのです。
フランス革命直後に「供給みずから需要をつくる」といったのはジャン=バティスト・セイ(1767-1832)です。この「セイの法則」は、フランス革命でそれまで第1、第2身分の人にしか許されていなかった欲望を、第3身分の人に開放したから成立した法則です。いまや、あらゆるモノ、そして資本が「過剰・飽満・過多」となったため、「供給みずから不良債権をつくる」ようになったのです。(227ページ)
本書で主張したいのは、あらゆる思考のベースを、近代システムのベースである「より速く、より遠く、より合理的に」から「よりゆっくり、より近く、より寛容に」していくことです。・・・こうした提案は、近代成長教の人からは「後ろ向き」と非難されます。しかし、時代の歯車が逆回転すれば、「後ろ向き」が「前向き」になるのです。(227ページ)
株式会社の終焉
水野氏はかねてより資本主義が飽和に達し、限界に来てやがて終わると主張してきた。それではその次はどうなるのか?その答えは未だ明らかではなく解の無いことは「それがどうかしたのか」(222ページ)と言う。
資本主義の仕組みに合致した株式会社はこれから100年の時間をかけて「よりゆっくり、より近く、より寛容に」なる方法を模索していくことになる。
自動車と電機、成長を支えた二つの産業で起きた不祥事。不祥事は個別企業の問題ではあるが、その根底にはセイの法則の終焉が横たわっている。
私は人々がイノベーションによって成長機会を創出しそこに資本主義が働く場面は出てくると考える。一方で水野氏の主張する通り成熟化した部分の方がイノベーションより大きいのではないか、とも考える。すべての株式会社が成長を指向する時代は終焉している。それでは成長を指向せず、何を指向するのか?我々はこれから100年かけてそれを模索することになる。
蛇足
成長の反対を縮小均衡と呼ぶのが本当にいいのか?
こちらもどうぞ