毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

石器時代はどうやって終わったのか?~『原油暴落の謎を解く 』岩瀬昇氏(2016)

 原油暴落の謎を解く (文春新書)

 岩瀬氏はエネルギーアナリスト、2016年年明け早々から下がり始めた原油価格は、20ドル台まで暴落し、世界の金融市場が連鎖反応を起こして、株価ま でもが下落するという大パニックを引き起こした。なぜ原油は暴落したのか?(2016)

 

石油の新経済学~2015年10月石油メジャーの報告

  1. (石油は)枯渇しそうにない
  2. 需要、供給ともに価格変動に敏感になる
  3. 西から東にながれるようになる
  4. OPECは一時的、短期的な変化への市場安定化能力は維持するが、変化が構造的なものかどうかを判断することが重要だ。

(172ページ)

原油価格を巡る技術革新とは?

この20年間の「技術革新」とは、他にもあるが、最も重要なのはコンピューターの発達だ。コンピューターの発達により、地質データの集積、解析のスピードが様変わりした。必要あ時間が大幅に削減され、解析制度も向上し、いわゆる「発明開発コスト」(探鉱および開発段階に要するコスト)は大幅に減少した。(236ページ)

そもそ原油は価格変動が激しい

1970年代に2度のオイルショックに見舞われた時、価格は約12倍になった。また、80年代半ばの逆オイルショックでの値下がりは約70%だった。我々が生きる現代は、2014年夏に110ドルだった価格が、2016年1月に30ドル以下に下がったわけだが、これは約4分の1になったということだ。(62ページ)

米国のシェール革命の正体

米国は、シェール革命によって、輸入に頼らないエネルギー自給を達成できるようになだろうとしている。まず2020年代初めには、一次エネルギー全体で輸入が不要なエネルギー自給を、10年後の2030年代初めには、石油だけを取り上げても輸入が不要な石油自給を達成できるようになるだろう、としている。石油は西から東にながれる様になる。つまり、従来は中東から欧米へと大きく流れていた石油が、将来は米州からアジアへ流れるようになる。(171ページ)

今後の価格変動はシェールオイル次第

(原油価格が上昇を始めた場合)アメリカの新規増産の生産コストが当面の「シーリング」になる可能性が高いだろう。・・・DUC(Drilled but Uncompleted、掘削済み未仕上げ)抗井からの生産、あるいはスイートスポットからの生産は50ドルでも価格競争力は相当あると思われるが、おしなべていえば、需要増に対応しうる米シェールオイルの新規増産の生産コストは60ドル以上ということになろう。(248ページ)

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原油価格と為替介入の観点から2015年の日銀を読む 「2%」はオデッセイ、「2年」はデルフィへ――森田京平・バークレイズ証券チーフエコノミスト|経済分析の哲人が斬る!市場トピックの深層|ダイヤモンド・オンライン

原油暴落の謎を解く

原油は1860年の商業生産開始の当初から価格変動の激しい商品であった。当時10年間の間に高値と安値は約138倍(61ページ)の開きがあったという。需要と供給で常にオーバーシュート(行き過ぎ)を繰り返してきた。著者は、この原油の性質は今も変わっていないという。つまりは2008年以降の原油価格暴落を陰謀論などで捉えるのはナンセンスということになる。そして今後、1バレル60ドルが原油価格の天井になるのではないかと推測する。

原油の生産がコンピューターによって効率化された。消費においては例えば自動車の燃費効率は20%良くなってはいる。しかし供給面での変化と同等の変化レベルには達していないと思う。一言で言えばまだ消費=需要面ではコンピューターによる効果は始まったばかりだ。原油価格は上昇しない。価格が上昇しないのだから原油の枯渇を経済的に心配する必要性も薄い。

ヤマニ元サウジ石油大臣が20年ほど前に行ったように「『石器時代は、石が無くなったから終わったのではない』・・・石油時代は新技術の登場によって終わる」(173ページ)新技術が具体的に何かは未だ分からないが、コンピューターの計算能に依存するものだけは間違いない。

蛇足

エネルギーの新技術、それはコンピューターである

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