毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

塩と石油、共通点は”蜃気楼”~『 塩の世界史 - 歴史を動かした小さな粒』マーク・カーランスキー氏(2014)

 塩の世界史(上) - 歴史を動かした小さな粒 (中公文庫)

カーランスキー氏は作家、人類は何千年もの間、塩を渇望し、戦い、買いだめし、課税し、探し求めてきた。(2014、単行は2005)

 

塩は蜃気楼

地球上で塩のないところはないと言ってよい、だが20世紀に入って現代地質学が解明するまで、塩は死にものぐるいで探し、交易し、戦いとる対象だった。数千年のあいだ、塩は富の象徴だった。・・・今日の我々にとっては、何千年にもわかって人々が渇望し、戦い、買いだめし、課税し、探し求めてきた塩の歴史は、絵巻物語のように魅力的であり、いささかばかげている。国家がフランスの海塩に依存することの危険性に警告を鳴らす17世紀のイギリスの指導者は、外国の石油への依存を懸念する現代の指導者よりもこっけいに見える。・・・富の追求は長い目で見れば、蜃気楼を手にいれるためのむなしい旅でしかないだろう。(25ページ)

塩と地質学

17世紀末、石炭探鉱家がチェシャーの土壌を掘って岩塩を発見した。この発見に小躍りあしたのは塩商人ではなく科学者だった。掘削技術がさらに進歩すれば、あらたな科学分野-地球を研究する「地質学」が開けるのではないかと思われたのだ。(110ページ)

ドリル掘削により、地下には豊富な岩塩層があり、岩塩は貴重品どころかいたるところにあることもわかった。18世紀末には、多数の地質学者が中央ヨーロッパの地下はほとんどが塩だと確信していた。おおむねそれは正しい。(113ページ)

大規模な塩の堆積物のい生成について、まだ完全な意見の一致はない。火山より海に起源があることは合意があっても、塩水の塩辛さについて学術的な説明はなされていないのだ。(114ページ)

塩と石油

(1901年)テキサスの塩のドーム「スピンドルトップ」を掘りはじめた。これを境に、塩のドームにたいする人々の目は決定的に変わった。「井戸」や「掘削装置」という言葉を聞いて、塩を思い浮かべることはなくなった。スピンドルトップは石油の時代の幕を開けたのだ。・・・塩は異物を浸透させないので、有機物が塩と隣り合ってとらえられ、ゆっくりと分解されて石油とガスになる。このため、石油かガス、またはその両方が塩のドームの端で見つかることが多い(116ページ)

 

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スピンドルトップ(Spindletop)はアメリカ合衆国テキサス州ボーモント市の南に位置する岩塩ドーム油田。1901年1月10日、スピンドルトップに「ルカス1号油井」が完成、現代の石油産業の誕生の日付けを記した。一日10万バレルの産油量で、夜通し噴出する噴出油井でアメリカ合衆国の石油生産は3倍になり、第二次産業革命の燃料は、木材と石炭から、石油とその副産物に代わることを確実にした(Wiki

塩の世界史

現代の日本では塩に自給率は15%程度、残りはメキシコやオーストラリアから輸入している。塩の用途の80%以上はソーダ工業用(塩をナトリウムと塩素に分解し、それを原料として使用)である。一方食用はわずか15%であるという。

ドリルの発達により掘削技術が向上、地質学は塩地中のありふれた所にあることを明らかにした。塩は貴重品からコモディティになった。それと同時に石油を貴重品に変えた。今日本の原油不足は懸念されても塩の不足を指摘する人はいないのであろう。

カーランスキー氏が言うように我々は富という名の蜃気楼を追い求めている存在である。金、銀、ダイヤモンド、結局は塩と同じ鉱物由来である。

蛇足

蜃気楼とは英語でmirage,逃げ水あるいは儚い夢

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