毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

オーケストラ指揮者に学ぶ、リーダーの攻守〜『指揮者の仕事術』伊藤 乾氏(2011)

指揮者の仕事術 (光文社新書)

弦が切れる、打楽器が床に落ちる、管の内部に水蒸気が詰まる、オペラ歌手が歌を間違える…そんな時こそ指揮者の出番です!現役指揮者だから語れる「自ら音を出さない音楽家」のリーダーシップ論。(2011)

 

音楽の守備

「複雑な作品をきちんと正しく演奏し、できるだけアクシデントを避け、不測の事態が起きた際には速やかに事態を収拾する、守りの堅い演奏」という意味だと思ってください。

  1. 楽譜の指示に従いながら、しかし何よりもまず、
  2. 萌の前で弾いたり歌ったりしている演奏者や歌手のことをよく見ながら、彼らが出す音をしっかり聴く

ことが大事なのです。(35ページ)

忍耐強く待つ、仕事

指揮者自身は一つも音を出していないため、プレーヤーが出す音に対して、すべて受け身でものを言わざると得ないからです。…オーケストラで実際に音を出すのは個々の演奏者で、指揮者にとっては、それを助け、励まし、全体をよいものにサポートしてゆくことが一番大きいのです。言い換えれば、アンサンブルが「自然に改善するのを忍耐強く待つ仕事」といえます。実はこれは、19世紀から20世紀にかけて最大の指揮者の一人であるブルーノ・ヴァルダー(1876-1962)が言ったとされる言葉です。彼は、指揮者の仕事では、奏者が正しい演奏に気づくのを忍耐強く待つことが大事、と教えたそうです。(37ページ)

楽員に夢を見せてくれる指揮者

最も印象に残っているのは、カルロス・クライバー指揮のウィーン国立歌劇場公演、リヒャルト・シュトラウスの「薔薇の騎士」の練習風景です。亡くなったカルロス・クライバーは、プレーヤー全員を夢心地にさせる演奏で知られ、生前から半ば伝統的な指揮者でした。しかし、彼のリハーサルはそうした本番の演奏とは打って変わって、極めてオーソドックス、かつ無駄のない手堅いもので、その落差に深く納得がゆきました。・・・こうした手堅いリハーサルを積み重ねて、本番ではみんなの演奏が自由に飛翔できるようにする。それが彼の芸術の骨法、基礎となる枠組みなのだと、強く感じました。(97ページ)

指揮台のコンダクターは、プレーヤーみんなに共通の夢を見せなければなりません。この人と一緒に演奏したら、必ず素敵なものができると、みんなが本気になってくれるような夢。それをみんなが感じ、力を合わせてゆける希望、これが何より大切です。そういう夢への確信を、指揮者自身も持たなければなりませんし、リスナーにも、「あの人は次に何をしてくれるんだろう?」「あの人は何を考えているのだろうか?」と期待してもらうこと、つまり「夢」に胸をふくらませてもらうことが大切なのです。(262ページ)

リーダーシップ

様々なアクシデントに見舞われるオーケストラの生演奏。「音を出さない音楽家」である指揮者はフリーハンドであるからこそ、あらゆる種類のアクシデントを収拾できるという。これが「守」であるなら、「攻」はオーケストラに夢を見せることであろう。みんなが本気になってくれる様な夢を与えること、これが音楽監督として、リーダーとしての役割である。指揮者は、攻守の要なのである。そして更に、指揮者が音楽監督として、企画し、資金調達をする。時として、指揮者は経営者の顔まで持つ。

蛇足

リーダーにも攻守がある

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