毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

勝負は実力だけで決まると思っていませんか?~『人間における勝負の研究―さわやかに勝ちたい人へ』米長 邦雄(1993)

 人間における勝負の研究―さわやかに勝ちたい人へ (ノン・ポシェット)

 米長 邦雄(1943 - 2012)は、将棋棋士。2003年(平成15年)12月、引退。

勝負は実力だけで決まるものではない、勝負もまた人が創るものである。(1993)

 

 運を掴む方法

 

この一番というのは、必ずしも「でかい勝負」ではない。私のみるところ、一生のツキを呼ぶとか、何年間のツキを呼び込む大きな対局とは、実は自分にとっては一見、何の影響もない一番、その勝敗が自分の進退には直接影響がないけれども、相手にとっては大変な意味を持っている勝負なのです。具体的に言えば、自分がその相手に負けても、自分の段位がすぐに上下するわけではないが、相手によっては、勝敗が直接影響して、その人の人生を左右しかねない一番です。

 

 

大野対米長戦

 

(私が)7段の時にも、私は一生の運を賭けた勝負を経験しています。・・・大野対米長戦で大野さんが勝てば、大野さんが文句なしにA級入り。・・・私は勝っても、A級入りするわけではないし、負けてもB級から落ちるわけではないのですから。しかし(大阪に)西下する時は、死に物ぐるいで闘おうと、決心しました。そして、そうとうに悪い将棋だったのを、私は粘って大逆転してしまったのです。(84ページ)

なぜタイトルを争う棋士になれたか?

 

私は大野さんと一所懸命闘った。一所懸命もさることながら、なおかつ勝ちきった。・・・私の将来には関係ないと思っていた大野さんとの一戦の結果が、次年度になって大変な影響をもたらしたからです。・・・大野さんとの大局で私が一所懸命に指したことに対するご褒美といいますか、いい報いが表れたのです。同じクラスの棋士仲間のうちに“二番手の棋士は上がらせたくないが、お前なら上がらせてもよい”というムードが漂ってきたのです。・・・自慢できるエピソードではないかもしれませんが、とにかく私のA級入りの陰には、仲間の応援があったようです。(87ページ)

自分に有利な空気を作り出す方法

 

 

勝負をしている時の言動にはできるだけ気をつけるべきです。私は勝った時も、負けた時も、だいたいできるだけ冷静にというか、ポーカーフェースというか、表情も気持ちも普段と変わらないように努力しています。一番まずいのは、勝ちそうになった時に、ああじゃこうじゃ、としゃべることです。これは勝ちを逃します。・・・勝っても無表情というわけにもいきませんから、ちょっと笑顔を見せる程度で「まあ、あいつにはしようがないや」と負けた人が不愉快に感じないように心がける。いわば、自分に有利な空気を作り出すわけです。そして、あの人には負けても腹が立たない、あの男にはどっちみち勝てない、という感じを相手に持たせるのが一番いいでしょう。(91ページ)

 

運も実力のうち

 

将棋は実力で決まるものだと考えていた。将棋のプロ同士で小さな世界ができている。そこでは仲間から実力と同時に行動が認められることであった。勝負の相手を不愉快にさせない、これは「きれいごと」ではなく勝つための知恵だと知る。あるいは運を自ら創っているとも言える。

米長は自分の将棋が将棋界にプラスになっているか、と常に考えたという。大きな事をなそうとしたら、大局感で考えると同時に、小さなことでマイナスを作らないことだと知る。米長はそれを「相手に借りでなはく、貸しを作る」と表現した。将棋のトップは世界をこのように見ていた。

蛇足

 

貸しを作るとは、与えること

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