人類が最初に栽培した植物は何だったか?~『栽培植物と農耕の起源』中尾 佐助 (1966)
中尾佐助(1916-1993)は遺伝子育種学の研究家、野生時代のものとは全く違った存在となってしまった今日のムギやイネは、私たちの祖先の手で何千年もかかって改良に改良を重ねられてきた。(1966)
バナナという果物
バナナは全世界的にみると、果物の中でいちばん重要なものだ。その生産量はあらゆる果物の中でいちばん多い。リンゴやブドウ、柑橘類よりバナナの方が多いらしい。多いらしいというのは、東南アジア、アフリカ、中米などで原住民の自家消費が圧倒的な量を占めるからだ。(22ページ)
バナナは農業のさきがけ
バナナが野性種から栽培種へと品種が優良化するのは、種無し果実へ進歩することである。バナナの栽培化の最初の進歩は、たまたま雌花に雄花の花粉がつかなくても種無しの大きい果実のできる性質(単為結果性)をもった変わり物を、野性の中からさがしだしたことからはじまったと想像される。これを選んで、植えたり保護したのが人類最初の農業だと考える人がいるわけである。この単為結果性はそのまま持ちながら、さらに雌花に受精能力が無くなった品種、さらに雄花に健全花粉までができなくなった種類という具合に種無し性は完全になっていき、優良な二倍体品種郡ができてくる。(24ページ)
それは数千年前に遡る
バナナの品種改良はあらゆる果物の中でいちばんみごとな成果をあげている。熱帯でも類の少ないオールシーズンに収穫できる果物となったし、種無しの果物という点ではブドウよりもミカン類よりも、ましてリンゴや物とは大違いの大発達である。・・・(バナナの)改良はほとんどがこんにち民族名すらはっきりしないような未開発地域の土人たちが成し遂げたものである。・・・バナナが栽培化された最初の年代はおそるべき古さであると推測される。それを1万年前以上に見積もる人もあれば、数千年と考える人もある。直接の証明はないが、私は5000年以上昔と推定している。(26ページ)
バナナと農業
バナナやサトウキビを開発して立派な作物にしたこと、あるいはジャガイモを寒い気候に適するイモにして開発してきた成果、それらが人類の生活のためにつくした貢献を考えてみよう。・・・全世界の民衆が参加してできた農業の歴史が浮びあがってくるのである。(191ページ)
普通の人が偉大な成果を達成
バナナには種がない、皮を向けば簡単に食べられ、美味しい。考えてみれば最初から人間にとってこんなに都合の良かったはずがない。人類が長い時間をかけて品種改良してきた結果である。それに関わった一人一人はほんの少しの達成しかしていない。それが長い時間の蓄積により人間にとって都合の良い栽培植物になった。我々は常に人類の偉大な遺産の恩恵に浴している事を実感する。
蛇足
バナナの木は高さ数mになるが実際には草本であり、その意味では正確には果物ではなく野菜(果菜)に分類される。
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