今から90年前どうしてラジオ放送は始まったか?~『真空管の伝説』 大村哲人(2001)
木村氏は録音技師、電話やラジオの発達に欠かすことができなかった真空管のエピソードを綴る。(2001年刊)
なぜラジオ放送が始まったか?
日本に無線電信、電話を聞くアマチュアが発生したのは大正5年(1916年)のころで、アメリカから輸入した部品で受信機を作る趣味が全国に広がった、政府は狼狽した。無線は政府関係の公的機関と軍の通信用である。電波は政府と軍が独占する方針だったから・・・それを盗聴するのは犯罪であるとして、政府は厳重に取り締まる方針で一致したが、懐柔策も考えた。
日本での無線電話の放送局を作れば、アマチュアの興味をその方に向ける事ができるのではないか。各界名士の講演を聞かせれば国民の教育になるかもしれぬ。受信する電波の波長を制限し、それ以外を禁止すればよいだろう、と政府は考えたのである。(15ページ)
1925年(大正14年)ラジオ放送開始
東京府の電気研究所が購入したGE製200ワット送信機があった。・・・これを借用することに決め、後藤を放送局相殺に祭り上げて、ごたごたしながらも電波発射の見通しが立った。・・・総裁の後藤新平がラジオ放送に付いて大演説をした。それは後に放送の四大効果と言われるもので、「文化の機会均等」(都会と地方、階級、男女の差別なく文化の恩恵を受けられる)、「家庭生活の革新」(ラジオを囲んで一家が楽しめる)、「社会教育の進歩」(電波を使って国民の教養を高める)、「経済の活性化」(重要な商品の市況を提供する)などなどであった。まことにラジオの機能を予測した卓見であったが、この中にニュースが含まれていないのは、新聞社に遠慮したのだろう、とうわさされた。(19ページ)
最初の目玉放送
8月13日の「炭鉱の中」を最初のラジオドラマとする記録が多い。当のNHKの資料にそう書いてあるのは、新劇陣総出の大掛かりな制作だったからであろう。・・・現代風にいうならラジオが新しいメディアであることを政府に認識させたのである。単にマイクを使って株式市況や天気予報のお知らせを伝える便利なもの、だけではない。ラジオの芸術性と魅力を理解させたのだった。(24ページ)
今から90年前のラジオからわかる事
アメリカでラジオ放送が開始されたのは1920年であり、わずか、5年の差であった。著者は当時の子供向け科学誌から引用し、「この無線放送を始めると、政府が秘密にしている無線電信や、電話を聞くことができるので、政府はびくびくしてなかなか許さなかったのです」(17ページ)と書いている。大正時代とは開放的で、そして進歩的な時代だったのだ。
そしてラジオは電波の本質を教えてくれる。電波とは本来誰でもが無料に使えるものであって、なぜ電波を政府が規制したくなるかを端的に説明してくれる。
90年前と今は確実につながっている。
蛇足
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