どうして「七人の侍」は名作だと言われるのか?それは基本にこだわり抜いたリーダーの成果~『複眼の映像、私と黒沢明』
橋本忍氏は昭和25年、『羅生門』を監督する黒澤明との共同脚本でデビュー。この二人を核にした黒澤組は、小國英雄らが参加した脚本で『生きる』(27年)『七人の侍』(29年)を始め、数々の映画作品を生み出した。
映画に取って最重要は脚本
映画の製作に一番重要なのは脚本で、その脚本にとり最も需要なのは、一にテーマ、二にストーリー、三に人物設定(構成を含む)であることは、映画の創成期からの定説(126ページ)
共同脚本
「いや分担なんかないよ。誰もが同じシーンを書くんだ。・・・そう、三人いたって、五人いたって、用意ドンで、一斉に同じシーンに取り付く。」
自分(黒澤)の原稿から該当部分を外し、他の者の書いたものを取り入れる。フレーズの交換だから、前後をほんの少し直すだけで仕上がる。この様にして黒澤の書いたものの中に、私や菊地さんの書いたものが取り込まれていくことになる。と同時に、ホンそのものが黒澤さんの語り口に、私や菊地さんの語り口が入り込み、今までに全くなかった新鮮な混声合唱の脚本に仕上がる。・・・こうして同じシーンを書き揃えることで、それらからはどのような編集でも可能になり、内容を充実した、イキのいい新鮮な脚本を作り出すのだ。
黒澤組の共同脚本とは、同一シーンを複数の人間がそれぞれの眼(複眼)で書き、それらを編集し、混声合唱の質感の脚本を作り上げる-それが黒澤作品の最大の特徴なのである。(227ページ)
七人の侍が名作である訳
黒澤明―その脚本作りにおける最大の特徴は、手抜きをしてはいけないものには手を抜かず、常人にはおよそ考えられない、ありとあらゆる努力の積み重ねを惜しまぬ男である。(185ページ)
圧倒的な成果をあげるには?
橋本氏は黒澤監督の映画の、そして脚本へのこだわりを本書で明かしている。
黒澤氏は共同脚本というシステムを作り出し愚直にまで繰り返していった。このシステムから生み出された作品が「七人の侍」である。共同脚本というシステムで成果を出すには、リーダーの覚悟が必要である。リーダーが徹底的に拘るというスタンスで臨んだ時、成果が誕生する。
本書のタイトルの「複眼の映像」、この発想を取り込んだ時、すべての表現は豊なものになる。「七人の侍」は「複眼の映像」の価値を教えてくれる。
蛇足
どうやったら自分の活動に複眼の視点を取り込めるか?
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