毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

理想的コンピューターの計算コストは「いくらかかるか?」~『熱とはなんだろう』竹内 薫 氏(2002年)

熱とはなんだろう―温度・エントロピー・ブラックホール… (ブルーバックス)

竹内氏はサイエンスライター、 熱の正体は? 2002年刊f:id:kocho-3:20150207232744p:plain

 

ビリヤード型コンピューター

 

 

電子の代りにビリヤードのボールを入力して、ボールどうしが途中で衝突したり壁で跳ね返ったりして、ボールが外に出力される仕組みになっている。・・・実はビリヤードで計算する利点は、それが可逆であることが直感的に理解できることにある。・・・玉が衝突しているだけなのだから、出口から玉を出してやれば、ちゃんと入り口からでてくるでしょう。つまり、ビリヤード型コンピューターは計算を逆にたどって入力を復元することができるという意味で、「可逆」なのである。

 

可逆の意味する所

 

最初につぎ込んだエネルギーを100%回収できる場合、その過程は「可逆」だという。つぎ込んだエネルギーの一部が「熱」として失われて周囲の環境に散逸してしまって、回収不能な場合、その過程を「不可逆」と呼ぶ。

 

本来計算はエネルギーを必要としない

 

 

ビリヤード型コンピューターという思考実験から計算は本来エネルギーを必要としない事がわかる。パソコンはファンが回り、サーバーは巨大な電力を消費している。ビリヤードコンピューターはあくまで思考実験であり、実際には半導体を動かせば電気抵抗が発生しそれによって熱が発生してしまう。

熱とは何であろうか?

 

熱力学では「熱とは温度差によってエネルギーは自然に流れる事」(94ページ)と定義される。コンピューターは発明以来から省エネルギーを追求してきた。真空管から半導体、大規模集積回路と進化するにつて計算のコストは劇的に下がった。コンピューターの計算コスト低下は計算量の増加によって吸収されてしまっている。だから我々は計算コストがゼロに向かって低下し続けているとは実感できない。

計算と思考のメタファー

 

我々の思考はコンピューターの計算とは違う。思考が可逆というのは直感とは反している。しかし、コンピューターの計算コストの理論値がゼロなら、人間の思考のコストもまたゼロに近づきうると捉えてもいいのではないか。我々はコンピューターの計算コストが高い=人間の思考のコストも高い、という先入観に囚われている。人間にとっても思考は本来コストはゼロに極めて近いか、必要エネルギーは考えるほど多くない。思考に時間がかかるのは先入観を外す事によるのだ。

蛇足

 

思考実験のコストはゼロ

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