古代メソポタミアの粘土版、バッハの作曲、そして株取引～キーワードは「アルゴリズムは貴方の味方」
古代から存在はしたが、2000年代、ウォール街で金融商品の開発に活用されたことで一気に進歩したアルゴリズム。映画や音楽のヒット予測に限らない、今や私たちの生活のあらゆる場面に進出しているのだ――。
作曲するアルゴリズム～バッハ・ボット
（作曲家コープは）バッハの合唱曲を何百曲も抽出し、とりわけ感動的な曲を作るときにバッハが用いるパターンを「学習」するシステムを作り上げた。・・・コープのアルゴリズムは、パターンやメロディ、調和の手法等次第にバッハの特質を備えるようになっていった。しかし何かが違った。曲自体はまともだ。和音変化も、耳がそれを期待するタイミングで行われる。だが曲にはバイタリティの本質の様なものが欠けていた。・・・ひょっとしたか、問題はサンプルの量や自分の書いたルールの組み合わせになのではなく、アルゴリズムがルールにきちんと従い過ぎているせいではないのか？・・・そして今までの曲のパターンや構造が何の前触れもなくリズムを崩し、人間の偉大な作曲家が作る様なきらめきを感じさせてくれるループやランダム機能を書いた。（153ページ）
http://artsites.ucsc.edu/faculty/cope/
コープが彼のアルゴリズムを利用して作曲したバッハ風（！）の曲は音楽会で絶賛を浴び、同時に拒否感を招き、一方人工知能の学会では第一人者と目される事となった。
インターネットボット（Internet bot）～Wiki
インターネット上で自動化されたタスクを実行するアプリケーションソフト。Webボットあるいは単にボットとも呼ぶ。単純な繰り返しのタスクをこなし、そのようなタスクに関しては人間が手でやるよりも高速である。ボットは主にクローラとして使われることが多く、人間の何倍もの速さでWebページを自動的に集め、その内容を分析・分類する。
アルゴリズムは如何にしてすべてを乗っ取ったか？
この本は、ウォールストリートの話から始まる。でもその後アルゴリズムは、あらゆるところに広がっていったのだ。（19ページ）
本書では金融界でのアルゴリズムの利用に加え、先のバッハ・ボットなど音楽分野、野球などのスポーツ、医師の医療現場、有人宇宙で使用されている人の性格分類、などの例が取り上げられる。
スナイター氏の提案「我々はどうすべきか？」
ボットに慣れ親しむことだ。現代の経済活動において、今もこれからも必要不可欠な人は、コードやアルゴリズムを理解し、メンテナンスし、改良することができる人だ。シリコンバレーに行ってみればよく分る。規模の大小にかかわらず、テクノロジー企業の最大の悩みは優秀なエンジニアが不足していることなのだから。（343ページ）
最初に戻って考えてみる～アルゴリズムの本質は早く・正確に定形作業を行う事
世界最初のアルゴリズムの記録は、現在のバクダッド近くのシュルッパクというところで発見された。1500年にもわたってユーフラテス川流域を支配していたシュメール人が紀元前2500年頃に書き残した粘土盤には、収穫した穀物を複数の人間で平等に分配する方法が描かれている。そこには、実用的な小型の計算器具が描かれていた。（94ページ）
シュメール人の粘土板で作業を迅速・正確に行う事は良い事だと思う。（粘土板によって職場を奪われた4500年前のシュメール人にとっては悪夢であったかもしれない。）それを考えるとバッハ・ボットも本質的には良い事であるはずだ。コープ氏はランダム性やループなどのコンセプトをアルゴリズムに入れた。このルールを書く事がプログラムを作る事の本質。コンピュータが自動的に生成できるアルゴリズムより、より抽象度と新規性を備えたプログラムを書くという事、これが我々のやるべき事である。
そしてもう一つ、アルゴリズムは通常はコンピュータで使用されるが、作業手順を粘土板に書いたものもアルゴリズム。コンピュータを離れ我々の活動の中でルーティーン化する事で迅速・正確に、そして何より抽象度と新規性のある活動に専念する事がいいと思う。
ウォール・ストリート、暴走するアルゴリズム(1/5) « WIRED.jp
今や金融取引の70%はコンピュータ取引、シュメールの粘土板と同様この現実を受け入れた者がこの現実を活用できる。
蛇足
アルゴリズムは迅速、正確な定形作業、あなたの味方
