毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

フランス貴族の旋盤加工と現代のネジづくり~共通項は究極の知的作業!

 

ねじとねじ回し この千年で最高の発明をめぐる物語 (ハヤカワ文庫NF)

リプチンスキ氏は建築家。「ねじ回しは、人類の道具箱の仲間としては比較的新しいものであることをリプチンスキは発見した。それは中世ヨーロッパ時代の発明で、中国の影響を受けていない発明品なのだ。」

フランス貴族は旋盤が趣味!

フランス宮廷に技師として従えたのは ジャック・ベッソンという人物だった。ベッソンの旋盤はじつに凝ったつくりのもので、クランクを回すのではなく、重りをつけた紐を引っ張る事で回転させた。産業用ではなく、趣味人向けの機械だったからだ。紳士にとって旋盤を回す事は、婦人にとっての刺繍のようなもので、18世紀の終わりまで趣味として人気を保っていた。1701年に出版された旋盤についての最初の技術書、「旋盤の技法」の著者シャルル・ブリュミレ神父は次のように述べている。「この技術は、今日のヨーロッパで知的な人々が熱心に行う趣味として確立されている。純然たる気晴らしと知的娯楽の間に位置するものとして、時間をもてあますことで生じる不都合を避けるための最高の暇つぶしと考え、真剣に取り組む人々もいる。」

 f:id:kocho-3:20140301204625p:plain(111ページ)

 

旋盤で創られたのは装飾品

趣味人たちは木だけでなく、角、銅、銀、金といった様々に材料を旋盤に載せて回した。そうした作業の産物といえば、装飾的な意味合いしかものだった。(112ページより再構成)

 

 

現代の日本で「手作り感は必要がないから残らないネジ」作りの趣味

早く仕事が終わった日や、休みの日に、近所の工房に旋盤と投影機を借りて、ネジを作ることが最近の私の楽しみになっている。直径1.6ミリからスタートしたネジ制作も、現在は、0.7ミリまで小さくなり、時間も大幅に短縮した
ネジ山の太さや長さが、規格から外れていれば、ネジとして使いものにならない。時計は組み上がらないし、家具の板も合わせられないし、フライパンの柄を固定することだってできない。均一に、正しく作る。ほかのネジとまったく同じく作る。手作業の痕跡を消す、そのことが重要なのだ。

(趣味はネジづくり 中島麻美氏http://www.fij.or.jp/pdf/essay55.pdfから再構成)

 

中世のフランス貴族の旋盤加工と中島氏のネジづくり

両方に共通するものはまず本人が真剣に愉しんでいる事。そして経済合理性からは意味がない事。まさに王道の趣味である。旋盤加工は機能性を目指したものではなく、ネジづくりは機能性を確保するが故、装飾性はない。逆の方向ではあるが趣味として成立するという不思議さ、役に立たないからこそ人間の知的活動の本質がある。

 

蛇足

工業製品 としてのプラスネジの起源は1930年代の米国