毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

シリコンバレーでベーシックインカムの実験が始まった理由~『ルポ シリコンバレーで起きている本当のこと』宮地ゆう氏(2016)

ルポ シリコンバレーで起きている本当のこと

 宮地氏は朝日新聞サンフランシスコ支局長、テクノロジーの中心シリコンバレーではベーシックインカムの実験!が始まっている、という。(2016) 

ベーシックインカム・プロジェクトの担当者マット・クリシロフ氏が語る

オークランド市の協力を得て、市内のさまざまな所得層・人種・職業の約100人を選び、毎月1500~2000ドル(16万5千円より22万円)を無条件に渡します。これによって最低限の生活を保証し、その人たちがどのような経済状況をとるのかを1年にわたって追跡します。最初の1年のプロジェクトが終わったら、本実験に入る。本実験では、対象を1千人に広げて5年間追跡調査する予定です。

最低限の生活が保障されたら、人はどのような行動をとるのか。労働はどう変わり、人の生活の質はどう改善されるのか。この実験では、そうした結果を公表して、政府や自治体などが社会保障のあり方を考える上で役立ててもらいたい。

YC(YコンビネーターというVCの略称)は、できたばかりのスタートアップに投資してきましたが、同じように、テクノロジーによって生まれる富を、どうやったら一番公平に分配できるかを考えました。この地域では誰もが人が仕事を失う可能性や、生活の不安定さを心配しています。まずは手に職をつけたり、新しい仕事を探したりするのに最適な状態を整える方法を考えたのです。(204ページから抜粋)

宮地氏の解説

目の前で広がる格差や、セーフティーネットのほとんどない社会が、果たして世界最先端の町のあるべき姿なのか、自分たちが暮らしたい社会なのかを、彼ら自身が問いかけ始めているのも確かだ。・・・数年後、シリコンバレーには、荷物を運ぶドローンが空を飛び、無人の自動運転車が道路を走り、工事現場では人の代わりにロボットが働いているかもしれない。しかし、いくらテクノロジーが進化しても、そこに暮らしているのが人間であることには変わりない。(205ページ)

 

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Basic Income - Y Combinator Posthaven

ベーシックインカム

シリコンバレーはテクノロジーの本場である。テクノロジーは既存の仕事をIT、ロボットなどに置き換える。テクノロジーによって生まれる付加価値は本質的には金銭的価値を持たない。フェイスブックを見ても、基本は無料である。

しかし、ベンチャー企業IPOあるいはM&Aをすれば巨額のリターンが得られる。YコンビネーターというVC兼インキュベーターはここに投資をし、リターンを得てきた。このリターンはキャピタルゲインであってVCファンドの投資家のみがリターンを得、広く社会には還元されない。テクノロジーによって生まれる富を社会に分配するルートが存在しないのである。従ってシリコンバレーの社会インフラへの投資も不足しがちであり、これが極めて冷酷な社会構造を出現させている。

重要なのはテクノロジーの恩恵は金銭的に社会に還元する方法が未だ確立していない、という点である。ベーシックインカムはこれをつなぐルートになろうとしている。シリコンバレーだけでなく、日本でも同様である。「社会はテクノロジーから金銭的リターンを得る方法を確立してない」ということに気づかされる。

蛇足

IT・AIは限られた雇用しか生まない

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