毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

誰がハイパーインフレの恐怖を煽ってきたか?~『日本を救ったリフレ派経済学』原田泰氏(2014)

 日本を救ったリフレ派経済学 (日経プレミアシリーズ)

原田氏は”リフレ派”の論客の一人、「現実」を疑う人々が俗説を流し、国民の不安を煽り続ける。(2014)

 

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金融緩和と銀行の利益の関係

日本銀行インフレターゲット政策を採用し、消費者物価上昇率が2%まで断固として国債の買い切りオペを続けていれば、物価が上昇し、実質金利が下がり、景気が回復するが、景気回復につれて、物価も名目金利も上昇する。ところが、名目金利が上昇すれば、国債価格が下落する。銀行が厖大な国債を抱えている状況では、それによっていくつかの銀行はかなりの損失を被るかもしれない。(72ページ)

日銀は通貨の番人ではなく銀行の番人

銀行ではなくて、経済全体のことを考えれば、銀行が損をするからデフレを終わらすことができないとは、とても許容できない主張である。・・・であるにもかかわらず、金融政策を転換できなかったということは、日本が(銀行という)小さな業界の利害にからめ捕られて、正しい選択を採れなかったということである。(74ページ)

日銀のバランスシートが棄損される?

金融緩和を進めていけばいずれはインフレになる。インフレになれば、金融を引き締めなければならないが、その時には、日本銀行のバランスシートが棄損して通貨の信用が破壊されるというのである。・・・(日銀が)100兆円の国債を買えば、ほぼ100兆円の通貨発行益が得られる。後から、国債価格が(インフレおよび金利上昇により)仮に20%下がったとしても、損失は20兆円、国債を購入する前と比べれば80兆円の利益が残っている。何も心配することはない。

心配している(日銀の)人は、最初の100兆円の利益は通貨発行益として財務省に行くが、後から損する20兆円は日銀が自分で処理しろと財務省に言われる、だから心配だというのである。しかし、財務省が、最初の100兆円のうちから20兆円出して穴埋めすれば良いだけのことで何の心配もいらない。日銀官僚と財務官僚の間で頭の上げ下げがあるのだろうが、そんなことは国民の利益と何の関係もない。(138ページ)

インフレはいけないのか?

第一次世界大戦後の混乱の中で、ドイツは物価水準が1京倍にもなるハイパーインフレーションに襲われた。その混乱の中で、ナチスが権力を握り、ヨーロッパを戦乱に陥れ、ユダヤ人の大虐殺を行った。・・・だからインフレを起こしてはいけないと議論されることが多い。しかし、ちょっと待ってほしい。ハイパーインフレが起きたのは1910年代の末だがナチスが政権を取ったのは34年である。ハイパーインフレから15年たっている。20年代はワイマール共和国の時代であり、なんとか平和が保たれていた。それが崩れたのは30年代の大恐慌による。大恐慌はデフレと失業の時代であって、インフレとは逆である。(140ページ)

日本を救ったリフレ派経済学

2012年安倍政権は日銀に黒川総裁を任命し金融緩和を開始した。それまでの日銀の方針を変更した。それまで日銀は、金融政策は経済に中立であると主張していた。インフレターゲットは通貨価値を棄損し最終的にはハイパーインフレを招くという。我々はインフレが危険である、と植え付けられている。多分ドイツのハイパーインフレの写真とナチスドイツの記憶が大きく影響している。

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教科書で見たドイツのハイパーインフレの写真

それではどうして日銀はインフレを嫌うのか?市中銀行の資産が劣化するからであり、最終的には日銀の資産が劣化するからである。日銀の資産が劣化すると何が困るのか?通常はハイパーインフレの原因になるから、と説明される。本書で原田氏は日銀が自らの権益に固執するからであると言う。日銀は財務省に頭を下げたくない、だから財務省もンハイパーインフレの恐怖を煽ってきたのかもしれない。

本書で原田氏は失業率と自殺率の相関を紹介する。失業率が人を殺すのではなく失業から連想される恐怖が人を殺す。どうしてハイパーインフレの恐怖を煽る人たちがいるのか?そこには既得権益の存在がある。

蛇足

なぜハイパーインフレの恐怖を煽るのか?

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