毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

世界一有名な缶詰が教えてくれること~『ウォーホルの芸術~20世紀を映した鏡』宮下規久郎氏

ウォーホルの芸術~20世紀を映した鏡~ (光文社新書)

 宮下氏は美術史の研究家、20世紀を代表する美術家であるアンディ・ウォーホル(1928-1987)は、なぜ缶詰を描いたのか?(2010)

 

 

ポップアート

缶詰は19世紀初頭にフランスで発明され、19世紀末にアメリカで今日にいたる缶詰容器が開発された。1960年代には、このような加工食品が非常にさかんになった時代である。アメリカにおける当時の広告の9割は食品であり、そのうちの9割がデルモンテ社、コカ・コーラ社、ペプシ・コーラ社、キャンベル社のものであったという。・・・スーパーに並ぶだけでなく、街のいたるところにある広告や新聞やテレビにあふれていたイメージであった加工食品は、ポップアートの代表的なテーマとなった。(51ページ)

f:id:kocho-3:20160510082345p:plainMoMA | Andy Warhol. Campbell's Soup Cans. 1962

 

西洋静物画の伝統

ウオホールハ、古代以来の静物画というジャンルを大衆消費社会のシンボルである大量生産の缶詰を描くことでよみがえらせ、現代社会に適合したイメージとして新たな命を与えたのである。しかも、静物画のまとっていた本物らしさや奥行きを一切排除し、抽象的な空間にロゴマークのようにすっきりとしたイメージを浮かばせている。(52ページ)

平等での思想

どこでも入手でき、いつ誰が食べても同じ味の食物というものは、20世紀になってはじめて登場したものだった。現在では、缶詰や加工食品をたたえる人は少ないが、20世紀半ばには、それらはもっと輝いていた。大衆消費社会では人種も貴賤も区別なく、人々は同じ大量生産の食品をスーパーで買い、同じように調理して食べている。ウぉホールの絵はこうした食品の画一性をこの上なく明瞭に表現しているが、決して批判的な視点ではない。(56ページ)

20世紀後半の資本主義社会を反映

その意味で、キャンベル・スープ缶は、ウぉホール芸術の代名詞となっただけでなく、20世紀後半の資本主義社会を反映した新たな芸術を象徴するものとなったのである。(57ページ)

20世紀を映した鏡

我々は缶詰食品のありがたみを実感することができない。それは缶詰食品がありふれたからではなく、新鮮な食品を購入することができる様になったからであろう。それは冷凍技術の進歩であり、コンビニなど流通網の整備によって支えられている。しかし缶詰がなくなった訳ではない。例えば外食産業で缶詰利用を謳わないだけである。

20世紀後半、今から50年前のアメリカでは缶詰は輝いていた。「どこでも誰でも同じ味の缶詰は20世紀になってはじめて成立した。逆に言えばそれまでの社会は貴賤に応じて食べるものまで違ったということである。誰もが同じ物を食べられる、これは間違いなくアメリカの資本主義の輝かしい到達点であった。

新鮮な食品を追い求めること、グルメを追求すること、これが悪いのではない。しかし我々は誰もが同じものを食べられること、缶詰という存在に、そして資本主義というシステムの良い点、をもっと評価しなければいけない。

蛇足

最後に食べた缶詰は何ですか?

こちらもどうぞ