毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

銀行は成長企業と業績不振企業、どちらに時間をかけるべきか?~『捨てられる銀行』橋本卓典氏(2016)

 捨てられる銀行 (講談社現代新書)

 橋本氏は共同通信社の経済記者、「金融検査マニュアル」は廃止、地域の顧客にリスクをとれない銀行は消滅する! (2016)

金融監督庁とは?

かつては8%超(実質は10%超とも言われる)の不良債権比率が1~2%台程度まで落ち込んでいるにもかかわらず、つい数年前まで、銀行が取引する企業や地域経済の成長などは二の次で、銀行が回収見込みのない貸し出しを減らすか、回収できない場合にそなえて損失処理をするかばかりを迫ってきたのが金融庁だったのだ。信じがたいことに「安全な銀行を作る」だけで(顧客企業の成長を追求しないことに)満足する金融行政に誰もが違和感をかんじつつも、根本から変えようとは、森以外はでれも動こうとしなかった。(19ページ)

1999年金融検査マニュアル公表

検査マニュアルは根本的な不良債権処理を断行するための経済対策として作られた。・・・99年からわずか15年ばかりの歴史しかない金融検査マニュアルに徹底的に対応した経営へ変質してしまった。・・・不良債権処理を境に地場企業との関係は、「担保と保証と金利だけの関係」に様変わりし、地銀も地場銀行もそれが当然と思うまでに至ってしまった。今や、顧客への訪問はコストとさえ認識されている。(112ページ)

地域金融の本丸は事業再生

地域経済を考える時、地場企業の「成長支援」という聞こえの良いフレーズはよく聞くが、そもそも成長企業には、メガバンクでも地銀でも誰もが乗っかりたくなるのは当たり前のことである。・・・地域に根を張っている限り、数多くの人々の雇用や生活に直結する事業再生という難題に立ち向かわなければ、地域金融の責任を果たしたとは到底言えない。・・・(地銀は)金融検査マニュアル対応を究極まで磨き上げた結果、地域リスクを極力負わず、担保・信用保証への過剰な依存で、短期利益につながりにくい事業再生あんどはお荷物として関わらないようにしているからだ。(172ページ)

日本にとって地方の存在は?

地域金融機関が率先して地域切り捨てに走れば、結果的に中央と地方の税財政、社会保障、国土保全のすべてが崩れ、森(長官が率いる)金融庁が最も懸念する「国益」を大いに損なうことになるのだ。(182ページ)

捨てられる銀行

バブル崩壊後日本の金融システムに対し海外から不審の目が向けられた。日本の銀行は不良債権隠しをしているのではないかとの疑念である。それを払拭する為もあり欧米の目を意識した金融検査マニュアルが導入された。融資先を財務基準で評価、基準に達しない企業への融資を減らす”マニュアル”が生まれた。マニュアルは貸し剥がしと中小企業の倒産が引き起こされるも、不良債権問題は収拾に向かった。

橋本氏は15年が過ぎて、金融機関は金融検査マニュアルへの対応には成功したものの、地域経済への貢献がおろそかになっていると指摘する。金融監督庁はその方針を変え、それに対応できない銀行は顧客から見捨てられる、という。

地域金融機関が取り組むべきは「成長企業ではなく企業再生に取り組むこと」であると言う。この逆説には考えさせられた。地域経済から不審企業を取り除いていったとして、成長企業が代わりに生まれる保証はどこにもない。金融機関の財務体質だけが如何に健全であっても地域経済が疲弊し続けていけば金融機関の存続はない。資金需要が不足し、資金供給が上回っている日本で地域金融機関の存続は簡単ではない。それではこれからどうするのか?銀行は岐路を迎えている。

蛇足

マイナス金利は銀行の収益を更に悪化させる

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