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毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

再び戦争と難民の世紀を繰り返すのだろうか?~『【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛 』池内恵氏(2016)

【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛 (新潮選書)

 池内氏は現代イスラム政治史の研究家、いまや中東の地は、ヨーロッパへ世界へと難民、テロを拡散する「蓋のないパンドラの箱」と化している。(2016)

サイクス・ピコ協定は、第一次世界大戦中の1916年5月16日にイギリス、フランス、ロシアの間で結ばれたオスマン帝国領の分割を約した秘密協定。イギリスの中東専門家マーク・サイクスとフランスの外交官フランソワ・ジョルジュ=ピコによって原案が作成され、この名がついた。(Wiki

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どうして難民が発生するのか?

現在の中東から西欧にかけて生じている難民危機は、オスマン帝国崩壊期に生じた難民問題が再び大規模に生じたものであるかのように見える。・・・現在生じているのは、第一次世界大戦中と戦後の混乱期にもなお「解決」されることなく、第二次世界大戦後に進んだアラブ民族主義による諸国家の建国の陰に覆い隠されていた少数民族問題の噴出である。イスラーム教のスンナ派シーア派の宗教対立や、ヤズィディー教といったイスラーム教から見て異端とされる宗教の信徒の迫害という要素が新たに加わっている。(118ページ)

難民の選択

強制的に土地を追われることもある。しかし人々は、危険や抑圧を避けるたけに、個々の人間の選択によって住み慣れた土地を離れる。難民は生命と財産に大きなリスクや犠牲を負いながら「足による選択」を行っている。・・・残酷なのは、難民が被る多大な喪失と引き換えに、全体として事態は「解決」に向かうことである。・・・ある領域を統治する勢力にとって、自らの統治に服することを潔しとしない人間が難民として流出していくことは、統治のコストを抑えるが故に、好都合である。(120ページ)

現在の難民、過去の難民

現在のシリアのアサド政権のように、ロシアやイランの支援によって支えられ、自国民に対して市民を無差別に巻き込む攻撃を積極的に行うことを厭わないのであれば、また「イスラーム国」のように、イスラーム法による統治とジハードの実行といったイデオロギーを掲げて、国際法や人権規範を意に介さないというのであれば、このような酷薄な解決の道筋を取ることが可能となる。そして、振り返れば、過去の成功した国民国家の形成の過程も、多くの場合はここまであからさまではないとしても、同様の酷薄さを伴ったものだったかもしれない。(121ページ)

サイクス・ピコ協定の今後

かつてのサイクス・ピコ協定は、中東の抱えた問題への不十分な解決策であり、問題の根を随所に残した。中東のさらなる崩壊を食い止る「新たなるサイクス・ピコ協定」が結ばれ、受け入れられるまでの間に、難民や移民が大規模に発生して人口構成が一変し、国民や民族の観念、宗教や宗派の帰属意識が大幅に組み替えられるような、中東の社会の大きな変化を、我われは目撃していくことになるのだろう。(139ページ)

サイクス・ピコ協定、100年の呪縛

ヨーロッパではカソリックプロテスタントの間で長期にわたり宗教戦争が発生した。国民国家成立の過程では反ユダヤが吹き荒れ、第二次世界大戦でヨーロッパ同士が血を流してから70年しか経っていない。

池内氏は中東だけが特別なのではない、と指摘する。サイクス・ピコ協定によって簡単に国民国家が成立すると考えることの方が無謀である。そもそも国民国家という概念が戦争と密接に結び付いた概念である。ヨーロッパと同様、中東はこれから戦争、難民の世紀を迎えるのかもしれない。中東は、そして人類は、先の世界大戦と同じことを再び繰り返すのであろうか?

蛇足

中東問題は過去欧州が経験した問題

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