毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

なぜライト兄弟の飛行機の翼は2枚なのか?~『 不安定からの発想』佐貫 亦男(2010)

 不安定からの発想 (講談社学術文庫)

佐貫 亦男は航空宇宙評論家、ライト兄弟はどうして大空を飛べたのか。(単行は1997、文庫は2010)

 

 

翼をねじって左右の安定を確保

ライト兄弟がヒントを得た鳥の)コンドルの安定法は、右羽の端部の前縁を上げて、後縁を上げる左ねじりとする。その結果、右羽根が風に対して大きい迎角をもって揚力が増し、左羽根が風に対して小さい迎角をもって揚力が減り、コンドルは左に傾く。・・・われわれが風に向かって歩くとき、風圧を少なくしたければ頭を下げ、風圧を大きく受けたければ顔を上げる本能的行動と結びつけて考えれば、すぐ理解できる。(113ページ)

f:id:kocho-3:20160620081051p:plain1909 Wright Glider

どうして複葉になったのか?

コンドルのような単葉を使ったら、別に支柱でも立てないかぎり、ねじる力をかけにくくなることはたしかであった。それを複葉とすれば、翼間支柱がねじる力をかける支柱となるから、一挙両得である。・・・ライト兄弟のグライダーも飛行機も、操縦桿を動かせば、連結したケーブルで主翼の一端についた翼間支柱の後方支柱下端を引き上げ、同時に主翼の他端についた翼間支柱の後方支柱上端を引き下ろす方式である。・・・これは横ゆれ安定、すなわち、主翼の片方を上げ、他方を上げて釣り合いを回復するものであった。(114ページ)

不安定だから主体的に制御する

友人飛行機である以上は操舵が可能であるから、タイミングよく行えば破滅にはいたらない。さらに、不安定な飛行機は釣り合いが乱されたとき、その乱れが増大する傾向があるから、操舵によって機体の姿勢が変化する勢いは、安定な飛行機より急である。すなわち舵の利きは強烈である。(119ページ)

なぜライト兄弟に到達できたのか?

ライト兄弟以外の開発者の)だれも積極的に操舵によって安定を保つ開発方針をとるものがなかった理由は、模型を飛ばして研究したためと説明されている。なぜ舵を使わないのだ。この発想法の転換と、主翼ねじりによる横ゆれ操縦法の独自性の自信が、はっきりとした開発目標設定によって、わずか4年半でダ・ビンチ以来の人類の夢を達成した。(115ページ)

不安定からの発想

佐貫 亦男は、一介の自転車屋にすぎなかったライト兄弟が開発に成功したのは翼のねじりによる左右の安定性の制御を行ったことが大きく貢献しているという。それではなぜライト兄弟だけが制御をするという発想に至ったか?ライト兄弟はグライダーを操縦して1000回以上の実験をしていた。これが他者との違いであった。

 

f:id:kocho-3:20160620080637p:plain風洞実験

本書では触れられていないが、ライト兄弟風洞実験で翼の形を決定している。今までよりずっと横長な翼を選択した。ライト兄弟はリアルとバーチャルの実験を組み合わせることで4年半の短期間での開発に成功していたのである。

我々はライト兄弟から、不安定を制御するにはトライ&エラーこそが重要であること、を学ぶことができる。

蛇足

人がやらないトライ&エラーが重要

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