毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

長期的に合理的で短期的に不合理なこと、それが”英断”~『大人の直観vs子どもの論理』辻本悟史氏(2015)

大人の直観vs子どもの論理 (岩波科学ライブラリー)

辻本氏は発達心理学の研究家、子どもの脳は想像以上に〈論理的〉で、大人の脳は意外なほど〈直観的〉。日常生活で、人生で、そして進化の過程で、それが「うまくやっていく」秘訣であることを、脳の機能と発達の仕組みから解き明かす。(2015)

  

間違いだらけの私たち

①人間は利益の最大化のために常に合理的なはずだとする伝統的な経済学に対し、②行動経済学や心理学者が人間のさまざまな不合理をあぶり出し、③進化心理学者がその不合理こそが適応的形質だという視点を持ち込んだ、、。(34ページ)

なぜ飲んだあと締めのラーメンを食べるのか?至近要因と究極要因

「おいしいから」「楽しいから」といったシンプルなものや、「小腹が空いたままだど胃によくないと思って」などという苦しい言い訳など、いろいろ出てきそうだ。これらはほぼすべて、その一杯のラーメンと直接結びつく至近の理由といえる。

それに対し、究極要因は、そもそもなぜラーメンはおいしいのか、なぜ小腹がすくとラーメンを食べるのかに焦点をあてる。その行動の直近の理由ではなく、進化上の役割を考慮するのだ。栄養豊富な食べものが直ぐに手に入るわけではない環境で長く過ごしてきた祖先にとって、高カロリーの食べ物を摂取することは生き残るうえで役立ったはずだ。・・・進化心理学の研究者たちにとっては「行動経済学や従来の心理学は至近要因のみに注目しがちだ」ということになる。・・・究極要因に目を向ければ、その不合理なバイアスも実は優れた適応的形質かもしれない。(35ページ)

直観に任せた方が上手くいく

進化の過程で脳が大きくなりニューロンが増えたことにともない、たくさんの小さな世界が並立することとなった。それらが無意識レベルで同時に処理を進行することが、人間が行っている複雑な情報処理の一つの鍵といえる。それらの世界のとりまとめ役がいるとすれば、前頭前野が候補となる。(前頭前野の働きはワーキングメモリに例えられ、)いちいちワーキングメモリを使って順を追ってじっくり考えるのではなく、直観的に処理するほうが適応的なのだという解釈がなされた。・・・直観がうまくいくのは、単なる場当たり的な「ひらめき」ではなく、訓練の積み重ねに裏打ちされた神経回路があるからだ、、、。(57ページ)

子どもは論理的

一般に子どもは自分自身の能力を客観的に把握する能力が低いとされている。・・・「身の程知らず」は概してネガティブに使われることからもわかる。・・・子どもはその特徴のおかげで、自分に限界を設定することおなく、新たな挑戦、幅広い試みにつながるという主張だ。・・・子どもには子どもなりの淘汰圧があり、世界を広げ新しい発見をする機会を逸してしまう損失のほうが大きいと(子どもなりに)考えているのだ。(74ページ)

大人の直観VS子どもの論理

 

我々の行動は思ったより論理的ではない。それは数々の心理バイアスからも知られている。しかしそれは1000年単位の長い目で見ると、進化心理学の視点からは正しいこともある。それではどうして短期的かつ論理的には正しいことを選択しないでいられるのか?

進化心理学と最新の脳機能の研究は答えを見つけている。我々は論理を越えて、訓練によって直観を働かせることができるという。前頭前野の働きではなく、脳の各部の並列処理によって迅速に正解に至ることができるのである。

一方大人からは衝動的に見える子どもの行動こそ、思ったより論理的であるという。子どもの時代は衝動的に行動することがチャンスを増やす結果に繋がっているという。

「結局のところ、その行動や意思決定が不合理かどうかは、その人の立場や視点、対象とする時間スケールなどによるということだろう。」(38ページ)

長期的には正解でも短期的には不合理、短期的には正解でも長期的には不適切、どちらを選ぶかはその本人の選択なのだと気ずく。

蛇足

 

長期に正解でも短期的には不合理な決定を英断という。

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