毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

パソコンと中世ヨーロッパの写本との共通項とは”編集”~『17歳のための世界と日本の見方―セイゴオ先生の人間文化講義』松岡正剛氏(2006)

 17歳のための世界と日本の見方―セイゴオ先生の人間文化講義

松岡氏は、情報編集の実務家、研究家、なぜか日本人は仏教のことも、着物のことも、三味線のことも知らなくなってしまった。(2006)

 

 

修道院の図書館「ヴィヴァリウム」

ベネディクトゥスという人がモンテ・カッシーノにヨーロッパで最初の本格的な主導院をつくります。・・・ベネディクトゥス修道院こそ、ヨーロッパの画期的な情報編集センターの理想的なモデルだったんです。

そこに「ヴィヴァリウム」という図書館がつくられ、これはそののちの中世情報文化の基礎を用意していくことになりました。…そこでは修道士たちが修行の実践として、さかんに聖書の写本を行いました。その写本編纂室は「スクリプトリウム」とよばれ。各地の修道院に置かれるようになります。

スクリプトリウムでは、たんに聖書の文字を書き写すだけではなく、飾り文字を書き込んだり、ページごろに縁取り文様を描いたり、またミニアチュールといって極彩色の細密画を描くというふうに、何人もの専門修道士たちが分業して美術品のような聖書を生み出していきます。

修道院とパソコンの関係

余談になるけれど、このスクリプトリウムに注目して、これをコンピュータにしようとしたのがアラン・ケイなんです。アラン・ケイゼロックスのパルパルト研究所というところで、世界で初めて「パソコン」を構想した人だけれど、それは修道院のスクリプトリウムにヒントを得たわけだったんです。(174ページ)

1018夜『書物の出現』リュシアン・フェーヴル&アンリ=ジャン・マルタン|松岡正剛の千夜千冊より

ヴィバリウムは1980年代になってアラン・ケイがパソコンのコンセプトに使ったもので、ケイは電子による写本技術にあこがれていたのである。…書物の歴史はいまこそラディカルに認識されるべきである。書物がもつ象徴作用や機能作用ももっと知られるべきである。インターネットやブロードバンドが拡張すればするほど、時代はコンテンツを要求することになる。そのコンテンツは編集されていなければ何も使えない。コンテンツの編集技術はまさに書物をどうつくるかという技術と不可分である。その書物編集技術のなかに、世界をどのようなポータルやディレクトリーにするかという技術もすべて内蔵されている。

 

ヴィヴァリウムとは

自然の生態系を模した容器の意味で、パーソナル・コンピュータ(パソコン)の概念を提案した人物として有名な米国のアラン・ケイ(Alan C. Kay/1940~)が1986年から、コンピュータの中に人工の生態系を作り、生物を繁殖させようという実験プロジェクトの名称として使われた。ヴィバリウムを実現するためには、自由な直感力や感性を動員することができる新しいインタフェースの設計が必要であり、ケイはロサンゼルスの小学生たちとともに実践を進めている。ビバリウムでの成果は、ケイの目指している表現のメディアであるダイナブックの設計へと受け継がれている。

ビバリウム - マルチメディア/インターネット事典

 

パソコンのコンセプトは何か?

 

修道院の写本はマルチメディアの先駆けだった。そしてそれは修道院という生態系の中で、一冊の本にまとめるという生態系の中で、成長していった。アラン・ケイはパソコンで誰もが様々な情報を編集する生態系となることを目指していた。松岡氏は編集とは「2つ以上の物事や人間や世界観をさまざまな角度や意味あいから見て、そこから新しい関係を発見すること」(362ページ)と言う。パソコンのコンセプトは情報を編集し、発信するための道具として生まれていた。

蛇足

編集とは新しい関係性を発見すること

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