アートを見るとは他人との違いを知ること~『アート鑑賞、超入門』 藤田 令伊 氏(2015)
藤田氏はアートライター、本書は、アートを「見る」ことに焦点を当て、7つのポイントから芸術作品へのアプローチを説き明かす。(2015)
左手の窓のガラスは割れている
フェルメールの「牛乳を注ぐ女」を素材にして「よく見る」事が解説される。展覧会で人は一つの絵に平均1分もかけないのだそうだ。この絵を鑑賞した後、牛乳を注ぐ女に描かれている絵の窓ガラスは割れていましたか?と質問されてもほとんどの人がガラスに割れていた事に気付かない。
我々は絵を見ていない
牛乳を注ぐ女でも多くの人は画面中央に描かれている女性を集中的に見たのではないかと思います。女性が主役として描かれているので、私たちの注意はおのずとその女性に集中するからです。そのためにガラスが割れていることには、どうしても気がつきにくくなるものと思われます。進化の果てに到達した私たちのものの見方がなさしめている結果なのです。(24ページ)
良く見る為のディスクリプション
ディスクリプションとは「叙述・説明」という意味で、アート作品であれば、それがどのようなものかを言葉で説明することです。・・・試しに牛乳を注ぐ女をディスクリプションしてみると、こんなふうになります。
絵の主人公として描かれているのは一人の女性です。画面中央にほどほどの大きさで描かれています。彼女は白い頭巾を被り、黄色い上着を着、青いエプロンをつけ、赤いスカートをはいています。彼女はいましもミルクを器に注ぎ込もうとしているところです。その注ぎ方は注意深く、牛乳は一筋の糸を引くように器に流れおちています。(以下部屋の描写が続く)(25ページ)
ディスクリプションとはつまるところ、作品の様態を言葉に変換する作業です。誰にでもできる単純な作業にすぎません。しかし、ディスクリプションは美術の専門家とっては不可欠の作業となっており、ディスクリプションを意識的に行うことによって、見落としてた部分に視線を向け、作品全体を隈なく見渡すことができるようになります。(26ページ)
アートを見ること
アート鑑賞は、私たちの主体性を育んでくれます。ほかからの借り物ではない、自分自身のものの見方や考え方を培ってくれるポテンシャルを秘めています。もし、知り合いや友人と展覧会に行ったら、感想を交換してください。周りの人の声に合せるのではなく、ぜひ異論をいってみて下さい。・・・ふだんから「異論」をいうことに一人ひとりが慣れていれば社会は違ったものになっていく可能性があります。(197ページ)
アートとは何の為にあるのか?
アートを突き詰めていくと、作者の認識方法、思考過程を理解し、作者と私の認識と思考のフレームワークロジックは違うのだ、と気付く事になる。そしてそこに感動が生まれる。更にそれを言葉にして共有する時、シェアする人と自分との違いにまた驚かされる。アートとは自分と他者との違いに気付く為に存在していたのである。
蛇足
我々は違っていていいのだ。
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