日本で最初の彫刻は1893年創られた「老猿」、それは最初のJapnaCoolだった~『博物館へ行こう』
木下氏は東京国立博物館の展示デザイナー、目指すのは「記念撮影したくなる展示風景」。2007年刊
日本で最初の彫刻(1893)
江戸時代までの日本には、たくさんの屏風や掛軸があり、また浮世絵版画などの庶民でも愉しめる絵画があった。しかし、彫刻を一般の人々が楽しむ習慣はほとんどなかった。・・・そして日本にも世界に誇ることができる彫刻があるじゃないか、ということに気がついた。それが「仏像」だった。そこで、(仏像づくりをしていた高村光雲の「老猿」という新しい時代の記念碑的な作品が残されている。これが日本における「美術としての彫刻」の代表作だといってよいだろう。(72ページ)
老猿の解説(東京国立博物館)
東京国立博物館 - コレクション 名品ギャラリー 館蔵品一覧 老猿(ろうえん)
「高村光雲は江戸浅草の生まれです。江戸仏師の末流高村東雲の弟子として習得した木彫技術に洋風彫刻の写実性を加味して,木彫に新生面を開きました。《老猿》はシカゴ万国博覧会に出品された大作です。大鷲と格闘した直後の,気迫に満ちた猿の姿をいきいきと描写しています。」
老猿の目的は?
老猿は美術展に出品され、シカゴの博覧会に出品された。ゴッホの「ひまわり」が質素な部屋で観るのと、美術館で観るのでは違いがある。同様に老猿を美術館の会場で観るのとプライベートな空間で観るのでは違った作法が求められる。そういう意味で「老猿」は最初から博覧会での鑑賞を目的に、もっと言えば米国で鑑賞されるJapanCoolを目的としていた。
「老猿」は仏像彫刻を汲む
「老猿」の技法は仏寺という空間にある仏像を創る技法を彫刻に転用したものである。鑑賞する目的を宗教的なものから、博覧会へと転換させている。「老猿」は仏像の技法を美術館という空間で、欧米の人が鑑賞する、新しいフレームワークで創られた彫刻だった。
我々はフレームワークで見ている
我々は目の前のフレームワークで見ている。それは自分でも変える事もできるし、知らずに変えられている事もある。明治という時代がフレームワークが変わった時代だったと改めて気付く。
我々が知るべきはフレームワークもまた普遍ではない、という当たり前の事。違ったフレームワークに触れるとそこに感情が生まれるとも言える。
蛇足
博物館では世界や歴史を感じ、自分を取りもどすことができる。東京国立博物館の本館リニューアルにも携わった展示デザイナーが目指すのは「記念撮影したくなる展示風景」だ。
自分でフレームワークを選択してもいい
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