毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

人間をオセロの駒に例えてみる~但し白と黒、それに加えて新しい色、好きな色も選択できる。分子生物学の限界から、

 

生命を捉えなおす―生きている状態とは何か (中公新書)清水氏は分子生物学の研究家、本書増補版は1990年の発行。「分子の世界へと微視化を進めるだけでは生命の本質は捉えきれない。」


一分子、一機能

 

これまでの分子生物学の研究で、暗黙の内に仮定されてきたことは、「一分子、一機能」、つまり「一つの種類の要素は、一つの特徴的な機能しか持たない」という考え方だったのです。この考え方から出発すると、システム状態は一義的に決まることになり、そこに要素還元論の立場から生命の理解が期待された理由があるのですが、、(275ページ)

 

要素還元的な立場から脳の情報処理を理解する

 

神経ネットワークを一種の情報の分類器やフィルターと考える立場をとりますから、ネットワークの内部に自律的な情報の沸き出しはありません。(中略)したがって必要な情報はすべて回路の中に固定されており、固定されていない情報は出てこないといいう見方を採ることになります。(307ページ)

 

清水氏は「一分子、一機能」は死んだ生物の分析であると言う。筋肉収縮の分子機構の研究から生きた生物の「動的秩序を自律的に形成する関係子」という概念を提唱する。関係子はその階層によって、一つの神経細胞、神経細胞の集合としての脳、一人の人間、いずれをも指す「動的秩序を自立的に形成する主体」と考える事になる。

 

自律的に機能を決める関係子

 

個性と多様な内部自由度を持つ協力的な要素(関係子)の見かけの性質は、いまどの内部状態をとっているかで変わります。(関係子間の)協力が相互の競争を伴う柔軟なものであるという点です。また関係子はこの協力を柔軟に行うために一定の範囲でその内部状態を自由に選択することができるばかりでなく、新しい内部状態を自由に作り出すことさえもできるのです。(275ページ)

 

関係子で脳を捉える

 

大脳は、人間が生きている限り、たとえ眠っている時でも活発に働いており、決して単なる情報の(受動的な)受け手や変換器ではありません。それが絶えず新しい情報を作り出して止まない生命力を持っている複雑な生命システムである。(中略)大脳は単なる情報の受け手ではなく、外界からの情報に自律的に意味を付けることができるシステムです。つまり新しい意味を持つ情報を作り出したり発想したりする、いわば意味情報の自律的な生成器、発信器またはシュミレーターとしての性質ももっています。(299ページ)

 

関係子をオセロの駒に例える

 

関係子をオセロの駒に例えてみる。オセロの駒は白と黒を持つ、周りとの関係により白又は黒に変わる。もっと言えばオセロの駒は自ら白か黒か決められ、必要であれ場それ以外の色、例えば赤、を持つ事ができる。オセロは自らの内部に様々な色を持っている事になる。

f:id:kocho-3:20140504202809p:plain

 

関係子の文脈で人間を捉える

 

人間もまた関係子の様に、白と黒とそして様々な色を生成できる。周囲との関係性と自らら自律的な情報処理により色を決定できるとなぞらえる。自分の色は自分で決められる!という事になる。

 

生命システムは「自ら情報を作り出す能力」

 

本書は生命を分子生物学的に一分子、一機能では生命を捉えきれない、という事が議論の出発点である。我々は分子生物学の成果としてDNAの情報を分析できるまでになった。そこからもわかる事一人の人間の細胞はすべて同じDNAを持つ。そして一人の人間の中でそれぞれの細胞は違った役割を持っている。これは自ら情報を作り出す事によって達成されている。人間という種の集団として同じ分析をしてみる。一人の人間は人間の集団の中で自らの役割を自ら決定できる事になる。

 

蛇足

 

何色にもなれる、なりたい色になれるオセロの駒である。