毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

石油は本当になくなるのか?~原油価格が低下する中で知っておくべき事

石油を読む―地政学的発想を超えて (日経文庫)  

原氏は経済官僚、「高騰する原油価格の主原因はどこにあるのか?」2007年の出版、私見では時間の経過は本質に影響を与えていない。

石油の埋蔵量は経済予測

 石油の埋蔵量に関する将来の見通しは、よく誤解されることだが、決して自然科学的な根拠に基づく客観的かつ不変的なものではなく、人間の活動により大きく左右される経済的なものにすぎない。したがって、他の経済現象と同様に長期的な予測は非常に難しく、客観的な予測はあり得ない。そして、石油が近い将来なくなってしまうという蓋然性はかなり低い、というのが筆者の結論である。(137ページ)

資源悲観論~米国地域をのぞいてすべて誤りだった 

21世紀初頭には石油の生産能力が頭打ちになり、その後、急激に低下し、石油価格はそれに伴い上昇する」というものである。このような「資源悲観論」は一世紀反のわたる石油の歴史のほぼ全期間において、様々唱えられてきたが、そのうち米国に関するもの以外はすべて誤りであった。(145ページ)

 

筆者は①技術革新による石油回収率の向上、コストダウン、②石油の探鉱地域の拡大、③経済合理性が理由の増産余地、を軽視したからだと説明し更に生産量の40%程度を占めるOPECの動機について言及する。

 

中東地域では、新規油田を開発しなくても、約90年間は生産できるほどの埋蔵量をすでに有している。現在、探鉱に投資して増産しても石油の価格を下げるだけであり、そのリターンが返ってくるのは生産量はゼロになる90年後というのでは、探鉱インセンティブが生じようもない。(146ページ)

どうして米国地域の予測のみが当たったか?~もう調べつくしてしまった

 「なぜ、1970年代における米国の実際の生産量のピークを十年以上前に予測することができたか」、1950年代から70年代にかけての米国内の探鉱密度が、米国以外の地域の探鉱密度に比べて比較にならないほど高かったという事実を指摘しておかなければならない。探鉱密度というのは石油が存在する可能性のある堆積盆地の、面積あたりの累積掘削坑井数をさす。

 堆積盆地とは

 地表面が沈降して海や湖ができると、そこには陸上から運ばれてきた泥や砂、陸上や氷の中で生息していた生物の遺骸、水中で化学反応によってできた沈澱物、あるいは火山噴出物などが層状に堆積し、地層ができます。この地層が厚く分布する地域を堆積盆地と言いますが、盆地は供給される堆積物の多い大陸縁辺部や内陸部にできます。石油や天然ガスはこれらの堆積物に含まれる生物起源の有機物から生成し、特定の地質条件が整った場所に濃集して鉱床を形成します。

f:id:kocho-3:20140402081721p:plain堆積盆地

 

 堆積盆地探鉱密度
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米国の石油産業は、おおよそ1世紀半前に、米国で誕生し、その後現在に至るまで、探鉱密度投資の大半が米国やカナダで行われてきたために、これまでに掘削されてきた世界全体の坑井の大半が北米地域に集中している。(中略)単純計算では、米国をのぞく、世界全体が1970年時点の米国波の探鉱密度に達するまでには、後400年かかるとされている。

米国での原油と天然ガスの動き

 

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http://jp.wsj.com/article/SB10001424052702303702904579472682242899394.html

 米国および世界での膨大な原油およびガスの発見によって、原油価格は今後の5年間に現在の1バレル = 100ドルから75ドルに下落する可能性がある。(2014-4-1WallSt.Journal) 

石油について認識しておかなければならない事

 

  1. 石油の埋蔵予測は経済予測であり、科学的根拠に立脚するものではない。この予測は株価と一緒で経済的な意図を持った人々が予測をしている。

  2. 堆積盆地の分布を考えれば中東は当然として、未探索の地域は北極、南極を含めまだある。

  3. 原油より資源量の多い天然ガス、過去の大気の一部分と認識すれば、億年単位で原油以上に潜在的な埋蔵量が期待される。

 蛇足

 石油の埋蔵予想は株価予想のレポートと一緒、そこには作者の意図がある。