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2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

一流のエンジニアであり極地探検家のリーダー論~『技士道 十五ヶ条 ものづくりを極める術』西堀 榮三郎(1990)

技士道 十五ヶ条 ものづくりを極める術 (朝日文庫 に 9-1)

西堀/榮三郎(1903-1989)

1903年京都市生まれ。理学博士。京都大学理学部卒業。京都大学講師・助教授を経て、36年東京電気(現・東芝)入社。49年退社し、統計的品質管理の普及に努める。54年デミング賞受賞。57年第一次南極観測越冬隊長として越冬。以後、日本原子力研究所理事、日本原子力船開発事業団理事、日本生産本部理事など歴任。73年ヤルン・カン遠征隊隊長、80年チョモランマ登山隊総隊長を務めるなど、登山家、探検家としても知られる。

  本書は西堀氏が82歳のとき執筆 

1957年(昭和32年)2月から翌年の3月まで、私は第一次南極越冬隊長として、十人の隊員とともに、オングル島の昭和基地で越冬した。(44ページ)

1年間、私たちは熾烈な自然条件のなかで実によく働いたと思うが、その原動力になったのは何かと考えたとき、やはりそれは、全員が「共同の目的」を強く意識し、自分の役割を認識していたことだと思う。・・・私は、その南極といいう極限の世界で、人間の持っている活動性、創造性、人間の個性の大切さというものを強く感じたのである。

人を動かす要素① 活動性

基地建設のためにみんなが忙しく働いていたある日のこと、隊員の代表が「西堀さん、日曜日は休みにしてください」といってきた。

(日曜日を休みにしたところ、日曜日にもやっぱり隊員は働いている)

「休み休みといっても仕事をやっていたじゃないか」と重ねていうと「いや隊長は今日は何も命令されなかったでしょう。命令のない日は休みです。」初めはやく分からなかったけれども、よく聞いてみると、「働いているのは自分の自由意志で働いているのだから、体は働いていても心は休まっている、だから今日は休みです」というのである。…この体験から私は二つのことを学んだ。ひとつは、人間は黙っていても働くという、生まれながらの「活動性」について、もう一つは「自主性について」である。考えてみると、すべての隊員は仕事をしたがる人間だった。…これは人間本来のもっている、「活動性」という言葉で表されるものであろう。(230ページ)

西堀氏は人を動かす要素として他に、②創造性「仕事の目的は隊長が与えるが、手段については任せる」、と③社会性「労働によって人に喜ばれる」を掲げる。

労働には「働く」という活動性と「考える」という創造性と「喜ばれる」という社会性の三つの要素があり、これらが互いに影響しあい、相互に作用しあったとき仕事は楽しくなり、もっとやりたい、もっとやってやろうという労働への意欲になるのだということが分かる。(232ページ)

多才な西堀氏

 

西堀氏は子供のころ、白瀬中尉の「南極探検」(1913)を読んでいつか南極に行きたいと考え続けたという。その後南極に関する本を読み、米国の経験者にもあって資料を集め続けたという。それを知っていたに友人の推薦で、40年後隊長として南極に行く。年齢54歳の時である。

西堀氏は技術者として、仕事にかかわる傍ら、極地探検にも関わることになる。

南極で1年間10名のリーダーとして経験する。そこから組織を運営するには「活動性」「想像性」「社会性」が必要であると考えるに至る。南極という極限の世界だからこそ明確になったのである。西堀氏は技術者として大切な創造力は知識、切迫感、非常識な思考造力の掛け算であるという。開発が一人でできないように、チームは「活動性」「想像性」「社会性」によって運営されるとき、最大のパフォーマンスを発揮するのである。

蛇足

 

チョモランマ登山総隊長を務めたとき、彼は77歳!

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