最幸運者生存~中立進化論の視点から
中立進化論について整理してみた。
中立進化論
分子レベルでの遺伝子の変化は大部分が自然淘汰に対して有利でも不利でもなく(中立的)、突然変異と遺伝的浮動が進化の主因であるとする説。国立遺伝学研究所の木村資生によって1960年代後半および1970年代前半に発表されて自然選択説との間で論争を引き起こした。
遺伝的浮動
生物個体群での選択圧から直接影響を受けずに偶然性に左右される遺伝子プールの変化のことである。
(Wiki)
自然淘汰論から中立進化論へ―進化学のパラダイム転換 (叢書コムニス10)
斉藤氏はゲノム進化の研究者。本書で淘汰論と木村資生氏の中立進化論についてパラダイムシフトがあったと説明する。
中立論と淘汰論で大きく異なるのは、進化に寄与する突然変異についてである。ここで「進化に寄与する」というのは、突然変異遺伝子が十分に長い期間、たとえば100世代以上にわたって存続している場合を指す。(145ページ)
私は次の文章を、進化に寄与するというという言葉は価値観を含んでいる様に認識し分かりにくいので、この寄与を存続する、または消滅する、と言い換えたい。
淘汰論では、進化の過程では生き残っていくのはすべて生存に有利な突然変異と考える。遺伝子に存続する遺伝子(原文「進化に寄与する遺伝子」を言い換えた)は中立的突然変異だというのが中立進化論の立場である。(146ページ)
「図7-9淘汰進化論と中立進化論の違い」を一部修正
偶然性
19世紀に社会進化論を主唱したスペンサーは、「最適者生存」という標語を提唱した。一方二十世紀の終わりころになって、中立進化論を提唱した木村本人が「最幸運者生存」という標語を提唱した。このパラダイム転換を象徴するするともに、生物進化だけでなく、人間社会においても、偶然の役割はきわめて重要であることを示唆している。(中略)偶然には論理構造がないので、論理の必然性を使う従来の自然科学的発想は役にたたない。(185ページ)
斉藤氏は木村氏の論文のしめくくりを引用
有限な個体数に基づく遺伝的浮動の重要性を否定することは、私見では、深い谷の形成を説明するのに、ゆっくりとだが長く続く水の浸食作用では不十分だとして一度の大きな洪水を仮定するのに似ている。(111ページ)
斉藤氏の視点
斉藤氏は第1章「歴誌学としての自然科学」で有限性、偶然、時間、という視点を強調する。
本書で重要視する「偶然」が支配する事象は、通常の意味での機械論の枠外ではなかろうか?突然変異が偶然に生じて、その子孫遺伝子が偶然に増えたり減ったりする。このような偶然をともなう過程は、機械論のよってたつ論理的な因果関係をすべて説明する事は不可能なのである。偶然は説明を拒否するからだ。生命現象の場合には、時間とともに自己複製分子DNA内に蓄積する突然変異が、生命の歴誌性をもっとも明確に示している。(15ページから再構成)
蛇足
生きている事が「最幸運者生存」の勝者である事の証。