毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

シンガポールの顧客は”資本主義”であり”社会的インフラ”を提供している~『物語 シンガポールの歴史』岩崎 育夫氏(2013)

物語 シンガポールの歴史 (中公新書)

 岩崎氏はシンガポール地域経済の研究家、一人当たりのGDPで日本を抜きアジアで最も豊かな国とされるシンガポール。一九六五年にマレーシアから分離独立した華人中心の都市国家は、英語教育エリートによる一党支配の下、国際加工基地・金融センターとして発展した。それは表現・言論の自由を抑圧し、徹底的な能力別教育を行うなど、経済至上主義を貫いた“成果”でもあった。(2013)

 

シンガポールという国

 

シンガポールの国家と社会の誕生は、19世紀初頭に外部勢力であるイギリスが、マレーシアのほぼ無人島を手に入れて植民地国家を創り、その後、アジア各地から移民が集まって社会形成されたものである。また、独立国家時代も社会が国家を創ったのではなく、植民地支配の清算過程で国家が誕生し、その後、国家が何のまとまりもなかったバラバラな社会を自らの意向とデザインに基づいて改造した、というよりも実質的にゼロから創り上げたものである。(227ページ)

シンガポールは、社会と国家の生成パターンも国家と社会の関係も、多くの国と異なり、社会が国家を生み出したのではなく、二つの時代ともに国家が社会を創ったものなのである。

これが、世界の他の国と比べた、シンガポールの国家と社会関係の特徴である。社会がなく、国家が社会に先行して誕生するとどうなるのか。その解答は、植民地時代も現代も、強力な国家である。

シンガポールの国家目標

シンガポールの最大の価値は、民族や言語や宗教に関連したものではなく、経済発展なのである。これには、社会に伝統や歴史文化がないこと、若い移民社会という様相が作用していることを否定できないが、経済発展は、イギリス植民地時代だけでなく、現代国家時代にも生存のための絶対的要件とみなされている。(231ページ)

シンガポール株式会社

シンガポールの経済開発は、国家奨学金制度を通じて調達した有能な開発官僚の下で、開発戦略、産業インフラの整備、外国企業の誘致、労働者の賃金管理、政府系企業による生産活動への参入など、あらゆる分野に政府が関与して行われた。(140ページ)

負の局面:少子高齢化アントレプレナーの衰退

2007年の出生率は1.29と世界最低のレベルとなり、08年にはシンガポールの人口は半減するごの危機的予測を発表した。さらには、シンガポールの優秀な頭脳の人口30%のうち、毎年その4~5%に相当する1000人以上が、海外に流出していることも明菜らにした。流出者の大半は、厳しい管理のシンガポールでの子育てを嫌ったことを理由に挙げている。(205ページ)

その代償として、国民は厳しい管理下に置かれて常に能力を要求され、また、多くの国民が、植民地時代には旺盛だった自己責任をビジネスに挑戦する企業家精神を失うなど、コストを支払ったことも事実だが。(232ページ)

シンガポールから考える“国家”とは何か?

社会に蓄積が進むと秩序維持のため、国家が作られる。シンガポールは国家が先にあり、後から社会が形成された。シンガポールがマレーシアから分離独立した1965年に始まる。以来50年間、国家が経済発展を絶対の目標とする。一人当たりGNPは51,700ドル(2011年)とアジア一位を達成している。(日本は45,921ドル)国土面積は東京23区より少し広い程度、人口は380万人(横浜市なみ)、この都市国家は十分な成果を挙げた。

シンガポールは世界から優れたものを誘致し、また世界に投資を行う。シンガポールはこれらを可能とするインフラをエリートに率いられた国家が効率的に行っている。つきつめるとそれは資本主義の基盤となる、私有財産自由契約を提供していることになる。資本主義は国家という権力を必要とし、国家は繁栄という対価を享受する。シンガポールは資本主義を最大の顧客としている。

蛇足

シンガポールが失ったもの、それは資本主義の欠点

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