毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

1993年ノーベル化学賞受賞者キャリー・マリス氏

ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction, PCR)は、DNAを増幅するための原理またはそれを用いた手法。(ウィキペディア)キャリーマリス氏が1983年にその原理を着想、1988年にPCR分析装置が発売、2003年リチャードマリス氏がPCRの発明でノーベル化学賞を受賞。DNAの配列解読をするには解読したい所だけを取り出す必要がある。この方法を使えば必要な所だけを取り出し複製を作成できる。遺伝子解析の為の技術である。市場調査会社の試算では現在のPCRの市場規模は50億ドル程度(ハードウェア40%、試薬等50%、残りがソフトおよび受託サービス)、マリス氏が原理を着想してから30年を経た今でもバイオテクノロジーで使われている。

 

マリス博士の奇想天外な人生 (ハヤカワ文庫 NF)

 マリス氏の自伝はPCRの着想に始まり、ノーベル賞受賞のエピソード、大規模科学に対する警告、そして私生活へと話が二転三転する。私のPCRの認識をイメージにすると、「DNAが巨大な辞書、その中で調べたい1ページを切り取った辞書をDNAに複製させると欠けたページも補完して複製する。これを繰り返す事で欠けたページだけ何度も複製、欠けたページの集合だけ調べればよい。」

DNAの機能を活用して複製する、従がってこれを行う装置はハードウェアとしては精密電熱器といった簡単な機構で済む。調べてみるとPCRの装置の現在の価格はせいぜい2-3百万円という所。すべての始まりはマリス氏の着想である。着想は物理の制約を受けないしその着想を実現する工業的な技術は既に存在している。

マリス氏は自分を形容して

うーん、そうだな・・・・オネスト(正直)だね。私はオネスト・サイエンティストだよ。(中略)むしろ世界がどうなっているかを知りたいだけなんだよ。それは子供のころガレージで実験していたころからまったく変わっていない。だから最初に考えたとおりにならなくても全然かまわない。むしろ、あれ?そうなんだ!という展開の方が楽しいよ。でも現在の科学はそうなっていない。みんな自分の描いた世界を証明しようとしているんだ。(中略)でもそれは世界の成り立ちを知ろうとする行為ではない。」(322ページ)