毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

渋滞~要素還元のアプローチ

夏と言えば高速道路の渋滞

 渋滞学 (新潮選書)

西成氏は非線形動力学を専門とする研究者である。自己駆動粒子(self-driving particle)とは人や車などの集まりの挙動をモデル化したものだそうです。それぞれの”粒子”が自発的に行動する場合には単純なニュートン力学では説明できない。

西成氏はこの動きを「非対称単純排除過程」(ASEP:Asymmetric Simple Exclusion Process)のモデリングを使って分析している。ちなみにこれを高速道路の渋滞で例えるとこのモデリングの特徴は①高速道路はおのおのの自動車が入れる箱が連続してつながっている。②箱に入れるのは車1台だけ。(排除)③車は一定の進行方向にのみ進む。(非対称性)③車は一斉に次の箱に移動する、という簡単(単純)なもので記述される。

ASEPの結論は「自由相から渋滞相への相転移の臨界密度は2分の1である。」これを高速道路の渋滞に当てはめると「1キロあたり25台が臨界密度」=「車間距離が40メートル以下になった場合」となる。

このモデルは生体内のタンパク質合成のモデルとして2名の数理生物学者によって考え出された。対象をおおまかに捉えて単純な要素に還元してモデル化し、そのモデルを解くことで最終的に対象全体を理解する、という要素還元主義的なアプローチとの事である。

ニュートンの力学はわずか3つの方程式で宇宙の惑星の動きを説明した。一見複雑に見える惑星の動きの中から規則性を見出したのである。渋滞の発生原因も同様に複雑であり様々あるのであろう、でもこのモデルに従えば車間距離が40メートル以下にならない様にすればよいという結論になる。シンプルに言えば車間距離が40メートルにならない時間帯に乗る事であり、この本の面白さは日常の中に物理的アプローチの有効性を実感する事であろう。

子供に渋滞した時に説明してあげようと思います。