毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

奴隷制とカースト制を比較して見えてくるもの、社会制度は不合理なもの~『面白くて眠れなくなる社会学』橋爪 大三郎氏(2014)

面白くて眠れなくなる社会学

橋爪氏は社会学の研究者、なぜ社会はこんなふうに成立しているのか?戦争、憲法、貨幣、家屋、結婚、正義、宗教、資本主義、そして幸福とは?(2014)

 

社会学というアプローチ

 

 

社会学は社会の一部を切り取るかわりに、社会をまるごと考察します。経済学者のように、社会を市場(お金の関係)として扱ったり、法学者のように、法律の側面だけ扱ったり、しません。社会学者とは、一段高いところに立たないので、観察する自分と、観察される人びとを、区別しません。(5ページ)

 

カースト制度

 

 

その昔、アーリア人が、インドに攻め込んできたのがきっかけになりました。(ペルシャの北側あたりから)東に向かった人びとは、インドに入り込み、インダス文明に代わって紀元前1500年ごろ、自分たちの社会をこしらえました。でも、インドでは、先住民も人数が多かったのです。そこで、自分たちは支配民族として、宗教を独占し、政治・軍事を独占するいっぽう、先住民を、従属的な身分に押し込め、職業を割当てました。(221ページ)

 

カースト制度は不合理か?

 

 

職業選択の自由がありません。生まれたとたんに、職業が決まってしまいます。結婚の自由がありません。原則として同じカーストの相手でないと結婚してはいけません。カーストに序列があり、人間は平等ではありません。差別があります。(222ページ)

 

奴隷制

 

 

(奴隷制は)簡単に言えば、「人間が人間を所有する」ことです。・・・人間をモノのように所有してしまう制度が、奴隷制です。モノとして扱われるので、奴隷は、人間でありながら人間ではなくなってしまいます。(223ページ)

 

カースト制は福祉共存の仕組み?

 

 

第一に奴隷がいません。すべて自由民です。カーストは身分であって、所有する/されるという関係ではないからです。だから誰でもが、私有財産を所有できます。たとえ貧乏だとしても、自分のものを持てます。第二にだれでも結婚でします。・・・第三に失業がありません。・・・こういう、福祉共存の仕組みを、三千年前にインドの人びとが考えました。・・・すばらしい知恵ですけれども、カースト制度はうまく行き過ぎました。・・・カースト制は、宗教(バラモン教ヒンドゥー教)と結びついていますから、なおのことなかなか変えられないんですね。(227ページ)

 

奴隷制とカースト

 

奴隷はモノであるので、私有財産はない。そして結婚と家族を持つ事も許されない。奴隷制はそれゆえに持続可能性を持っていなかったという。一方カースト制は奴隷制より優れた制度であった、だから3000年の長きに存続してきた。

インドは現在カースト制を否定している。それでもカースト制は残存している。カースト制が人びとに生活の最低条件を保証するが故に今も持続可能性を持つメカニズムであるという。奴隷制の存在しない今、カースト制は理不尽にしか映らない。

一度制度が社会に組み込まれると弊害があったとしても簡単には排除できない事に気づかされる。

社会学の視点は、「社会には慣性の法則が存在する」ことに気づかされてくれる。

蛇足

 

制度は最適解を保証するものではない。

こちらもどうぞ