毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

あなたの業界にフリーランスがやってくる~『フリーランス女医は見た 医者の稼ぎ方』筒井 冨美氏(2017)

フリーランス女医は見た 医者の稼ぎ方 (光文社新書)

筒井氏はフリーランスの麻酔医、大学病院の教授の権威は失墜し、野心溢れる若手医師が目指す存在ではなくなった。専門的なスキルを売りにして腕一本で高額な報酬を得るフリーランス医師は、 病院にとってもなくてはならない存在となった。(2017)

 

  大学病院を辞める

 

本格的な高齢化社会となり、手術や麻酔の必要な病人は増える一方だ。・・・働けば働くほど仕事は増え、36時間連続労働も常態化していた。・・・有能も無能も給料はさほど変わらず、上が詰まっているので出世も望み薄・・・しかも、改善される見込みは全くなかった。40歳を過ぎたある日、私は大学病院に辞表を出した。「このまま職場で働き続けると、過労死か、医療事故が必ず起こる」と、直観的に思ったからであり、その時点では明確な将来設計があったわけではない。・・・退職1か月前、辞意を公表したところ出張麻酔の依頼が殺到し、退職の2週間前には翌月の仕事がすべて埋まった。・・・独立初年度、年収は大学病院時代の3倍になり、なおかつ週5日は自宅で夕食を食べられ、また日曜と祝日は完全休業日になった。(38ページ)

フリーランス医師とは?

フリーランス医師は、あらかじめ契約した条件に従い、「結果に応じた報酬」を受け取る。高リスク・高難度・長時間の仕事は、相場がワンランク上がるので、有能で勤勉な者ほど高収入となり・・・・低能医の場合は、仕事も途切れがちで収入もさほど増えず、こっそりと年功序列型の勤務医に戻る者も多い。無能医に怖い思いをさせられた病院は、二と無能医には声をかけなくなくので、マーケットに淘汰される。要するに「有能は優遇、低能は冷遇、無能は淘汰」の世界であり、これが「マーケット」という名の神の見えざる手である。

フリーランス医師が浸透しつつある

2015年、日本麻酔科学会によるマンパワーアンケート調査は、学会幹部を驚かせた。一般病院の59%(これは想定の範囲内)、大学病院の39%が外部からフリーランス麻酔科医を雇っている」という結果だった。大学病院でも4割という事実は、彼らの予想を超えた。(41ページ)

日本の社会の縮図~ソリティア中高年

公務員や安定した大企業において、年功序列でなんとなく管理職になり、1日中自分の机に座ってさえいれば、ソリティア(パソコンに無料インストールされているゲーム)ばかりやってもお給料をもらえる中高年正社員を指す。・・・大手広告代理店・テレビ局・電力会社・公務員・大学のような非グローバルな規制業種では、まだまだソリティア社員は温存されている。(184ページ)

インターネット社会の到来

フリーランス医師が生まれた理由の一つは「インターネット社会の到来」である。ここ10年の技術革新によって、インターネットとは単なる情報伝達や娯楽に留まらず、個人と個人が直接つながることを可能にした。・・・「自分のスキルを磨き、よりチャレンジングな仕事を成功させたい」「成果に応じた報酬が欲しい」「時間や組織に縛られず、自分流のワークスタイルを貫きたい」という人材には、面白い時代となりつつある。(193ページ)

医師の稼ぎ方

筒井氏は40歳まで大学病院勤務と医師としての王道を歩いていた。40歳を過ぎて退職を決意する。大学病院の勤務状況に耐えられなくなった故に決める。大学病院は典型的な日本型組織である。大学病院の窓際となった医師が余っているという。こんな社会的損失はない。そしてこれは大学病院だけでなく、日本社会全体の特徴なのかもしれない。

筒井氏は「フリーランスになって9年間生き残ってきた」という。有能だからである。エリートが避けて通る様な泥臭い現場を経験しなければ、フリーランスで活躍できる様な医師になれない、という。本書は強者の論理一本ではないからこそ、面白い。

蛇足

自分の業界にフリーランスは居るか?

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