毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

銀河鉄道999の描く夢とは何か?~『夢見られた近代』佐藤健志氏(2008)

夢見られた近代

佐藤氏は評論家、「欧米の夢に適応するための努力を強いられてきた過程」である「近代」、「物語」を通して問う、空虚なる日本の真因。(2008)

 

内容(「BOOK」データベースより)

私たちの生きた「近代」は、本当の近代だったのか。いま、日本のホンネが爆発する!ポップカルチャーという「物語」を通して問う、空虚なる日本の真因。

 

「政治」とは、「社会の多くの人々が受け入れるような虚構や幻想(たとえば自由、平等、成長など)を体系的に汲み上げたうえで、できるだけ長期にわたって、それらを『事実』とすり合わせることにより、客観性(もしくはリアリティ)の維持に努めること」と定義できよう。(位置3888)

政治と物語は同じ構造

政治は、社会的な虚構や幻想といった広義のフィクションを扱う性格ゆえに、教義のフィクションたる物語とも密接に通底しているのである。ならば物語にしても、政治性を持つと考えるのが自然であろう。(位置3924)

 

 

 

物語の機能

私が提起したいのは、「物語は『現在の社会において、現実(認識)がちゃんと維持されているかどうか』を映し出す鏡としての機能を、作り手が意図するとしないとにかかわらず持っている」という点に他ならない。・・・物語は、純然たる虚構であり、「事実」の制約をさほど受けずにすむため、「物語はこうあらねばならない」「こうであればいいのに」といった価値判断や願望を直接的な形で反映する。・・・一般向けをあまり志向しない「潤芸術」的な作品より。商業的成功を重視するポップカルチャーの方が、「現実のあり方を映す鏡」として有効に機能する場合が多い。(位置3933)

虚実革命

社会の情報化が進むにつれて、現実(認識)それ自体が「直接的な行動や体験を通じて知ったり得たりするもの」ではなく、「メディア(=映像)を通じて間接的に知ったり得たりするもの」に変わってゆくのだ。これは現実(認識)と物語とが、映像を媒介として一体化しつつある」というにひとしい。20世紀後半以後の世界においては、現実(認識)と物語の境界が曖昧になる「虚実革命」とも呼ぶべきものが始まっている。(位置3981)

(欧米人によって)夢見られた近代に生きる

近代においては、世の中にたいして人々が抱く夢が一気にふくらむし、それらの夢が実現されてしかるべきだという考え方も広まる。・・・日本人にとって、近代は、「欧米(人)の夢に適応するための努力を強いられた過程」とも見なせよう。・・・あわせて厄介なのは、近代における「文明の進歩」のスピードが、時代とともにどんどん速まってゆくことであろう。・・・われわれの生きる世界は人間が夢見たものにあらず、「進歩」の理念それ自体によって作られた、機械化された夢と呼ばれるべきものかも知れない。(位置50)

戦後という物語

戦時中の日本人に見られた熱狂的なナショナリズム、すなわち国粋主義は、この国が明治以後ずっと抱えてきた欧米へのコンプレックスが反後的な形で表れたものにすぎず、ゆえに現在の私たちにも受け継がれていると想えてならないのだ。(位置389)

夢見られた近代

日本は明治以降一貫して欧米人によって構築された成長という枠組みの中にいる。佐藤氏は終戦を挟んで何ら変わっていないと主張する。戦前のナショナリズムも、現代のクールジャパンも根底は同じということになる。近代とは①成長する夢であり、②日本人の白人願望であり、③機械化された夢、である。

本書で引用される銀河鉄道999では、成長、白人、機械、の構図にぴったり当てはまることに驚く。

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舞台は、銀河系の各惑星が銀河鉄道と呼ばれる宇宙空間を走る列車で結ばれた未来世界。宇宙の多くの裕福な人々は機械の身体に魂を移し替えて機械化人となり永遠の生を謳歌していたが、貧しい人々は機械の身体を手に入れることができず、機械化人の迫害の対象にされていた。そんな中、機械化人に母親を殺された主人公の星野鉄郎が無料で機械の身体をくれるという星を目指し、謎の美女メーテルとともに銀河超特急999号に乗り込む。(Wiki

更に本書では虚実革命、政治のドラマ化、を指摘する。どうしてTVタレントが選挙で勝つのか?リアリティ番組出身のトランプ氏が大統領候補になり得たのか?テレビに始まる映像の時代は高いリアリティを持ち、もはや現実と区別がつかない。逆に政治が虚構としてのドラマの様に見える。

我々は明治以降一貫して、「夢見られた近代」に住んでいる。

蛇足

空想が現実を追い越したのか、現実が空想を追い越したのか?

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