毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

絶対貧困という極限状態で、人はどう生きるか?~『絶対貧困―世界リアル貧困学講義』石井光太氏(2011)

絶対貧困―世界リアル貧困学講義 (新潮文庫)

 石井氏は貧困地域をルポタージュする。絶対貧困──世界人口約67億人のうち、1日をわずか1ドル以下で暮らす人々が12億人もいるという。だが、「貧しさ」はあまりにも画一的に語られてはいないか。スラムにも、悲惨な生活がある一方で、逞しく稼ぎ、恋愛をし、子供を産み育てる営みがある。アジア、中東からアフリカまで、彼らは如何なる社会に生きて、衣・食・住を得ているのか。(2011)

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路上生活者と伝統医療

 

路上生活者の多くは病院をあまり頼りにせず、むしろ伝統治療や呪術のようなものに走るようになります。・・・どれだけ効果があるかは知りませんが、市販の化学薬の何分の一かの値段で売られています。・・・私は、状況によっては、このような伝統薬売りや呪術師は(路上生活者にとって高額で治療を受けられない)病院の医者よりずっと頼りになると思っています。(146ページ)

マドゥという名の病人と伝統薬売り

ある日、街の伝統薬売りが噂を聞いてやってきました。50歳くらいの男性でした。彼は路上に風呂敷を広げると、そこで伝統薬をつくりはじめました。マドゥは「お金がないから」と断ろうとしました。しかし、彼はこう言いました。「お金はいらないよ。ただ、治ったら食事でもご馳走してください」それから薬売りは毎日のようにやってきては、伝統薬を無料であげました。・・・しかし残念なことに、伝統薬はまったく効きませんでした。・・・やがてマドゥの死が誰の目にも明らかになった時、彼は昼から翌日の明け方臨終を迎える時までずっとマドゥの手を握りしめてあげました。黙ってぬくもりだけをつたえてあげたのです。薬売りはマドゥの死を見届けた後、家族から一杯だけ食事をご馳走になり帰っていきました。私が後を追いかけ、どうしてマドゥの治療をしたのか、と尋ねると、(伝統薬売りの)彼は次のように言いました。

「わたしが薬売りだからだよ。薬売りというのは病人を助けるために存在しているんだ。もし治せないなら、手を握り励ますことで心を支えてあげればいい」(147ページ)

絶対貧困

 

世界には1ドル以下で暮らす人が12億人いる。その多くがスラム街や路上生活者となっている。絶対貧困で人々は集まって生活しようとする。そこには我々の生活と同じような人々の交流がある。悲惨なことも多いそのその暮らしは、我々と形が違うだけである。

そして絶対貧困という極限状態は、本当の姿を我々に見せてくれる。人は人の役に立つことが嬉しいのであり、自分でしかできない方法で他人の役に立つとき、それを職業という。伝統薬売りのエピソードは職業の原点を教えてくれる。だからこそ人は絶対貧困の中でも集まって生活する。

蛇足

 

プロフェッショナルとは他人のできないことをやること。

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