毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

現状というシステムに埋没したとき起こること~『満洲暴走 隠された構造 大豆・満鉄・総力戦』安豊 歩氏(2015)

満洲暴走 隠された構造 大豆・満鉄・総力戦 (角川新書) 

安豊氏は経済システム論の研究家、混迷の中で建国され13年で崩壊した満洲国。一極集中の特異な社会、急拡大した満鉄石原莞爾ら陸軍エリートの苦悩――成立と暴走の要因を「東大話法」で話題の著者が解明する。現代にも通ずる欺瞞の系譜が見える。(2015)

 

立場主義三原則

前文、「役」を果たせば「立場」が守られる。

第1条、「役」を果たすたけには何でもしなけばばらない。

第2条、「立場」を守るためなら、何をしてもよい。

第3条、他人の「立場」を脅かしてはならない。

この三つさえ前もれば、日本では平和に生きていけます。私のようにこれをぜんぜん守っていないと、いろいろと面倒な目に遭います。この立場主義イデオロギーが現代の日本社会を席巻していると私は考えるのですが、これが出現したのが明治期から太平洋戦争に至る時期です。石原莞爾は総力戦ができる大帝国を作るために、満州事変を企画・実行しました。しかし、それで何が起きたかというと、立場主義者たちの暴走が引き起こされたのです。

自分の立場を守ったり、他人の立場を脅かさないために、いろんな政策が決定されていく。この連鎖が始まりました。筋道が通っていなくても、効果がないどころか逆効果でも、だれかの立場を守るためなら、それらが延々と実行されます。(182ページ)

立場主義者に打ち克つには?

立場主義にトドメを刺すにはこの逆をやればいいわけです。「立場を守って必死でがんばる」よりもいい方法、楽しい方法、もうかる方法があらわになれば、自然とみんなそちらを採用するようになります。…まずはイノベーションでしょう。新興国ではまず出てこないような新しい価値を生み出す。つまりそれは創造です。そのためには「がんばる」では絶対無理なのです。…がんばらないで、サボって、新しいものを生み出していけるような心の余裕を持つことです。…もう一つは自然環境と伝統文化を大切にする、ということです。…モノも情報もタイムラグなしに、世界中で同じものが手に入る現在、本当に価値のあるものは「そこにしかないもの」だけです。その代表が豊かな自然と文化です。この自然と文化こそが日本の最大の財産です。これをどうやって経営資源に、ありていにいえばお金に換えるか、これを考えるべきです。(242ページ)

満州国の暴走

欧州で勃発した第一次世界大戦は、フランスとドイツが相打ちによって消滅する寸前まで行った。これを見た石原莞爾満州国を作った。満州は元々満州族の聖地であり空白の地域であったために組織化することがたやすく、植民地満州国へとつながる。

石原莞爾は大きな絵を描いて構想したが、実際には多くの立場主義者が立場の利益しか考えないが故に、全体として不合理を引き起こすことになる。

安富氏は立場主義者が日本をやる必要のない戦争をはじめ、今もその延長線上にあるという。

我々は立場ではなく、もっと大きな範囲から判断する必要がある。満州暴走はそれを今も我々に教えてくれる。

蛇足

 立場主義とはシステムに埋没すること。

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