毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

ジェット機の機長はパーキングブレーキを握っている~『機長、究極の決断』Cサレンバーガー氏(2011)

機長、究極の決断 (静山社文庫)

 サレンバーガー氏はUSエア1549便の機長、二〇〇九年一月一五日、ニューヨークの空港を離陸して上昇中に鳥の群れに衝突、両エンジンが破壊されマンハッタン島西側のハドソン川に緊急着水した。この航空事故は、乗員乗客全員が助かったことから「ハドソン川の奇跡」と呼ばれた。エンジン停止から不時着までわずか三分二八秒。(2011)

 

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飛ばしているのは人間

自動化が作業負担を下げられるところがあるが、他の領域では不適切な状況で自動化を使うとパイロットの負担が増える。だからパイロットは場面に合せてどのレベルで自動化を使うのが良いか承知していなければならない。

操縦が手動だろうが機械を補助に使っていようが、最終的に飛行機を飛ばしているのは人間である。あなたのいる世界、つまり飛行機と周囲の環境や場面を正確なメンタルモデルにしてリアルタイムで更新していく人間の頭脳の働きで飛んでいるのだ。(257ページ)

自動化はエラーの質を変えるだけ

自動化のやっかいな点として、もともと忙しくないような仕事はもっと楽にしてくれるが、もともと作業負担の高い業務は自動化でもっと忙しくなることだ。

たとえば間際になって着陸滑走路が変更されることを考えよう。昔なら進入に使う無線航行装置の周波数を次の滑走路に合せればよかったが、今では滑走路の変更に対応してコンピュータのボタンを10回から12回は推さなければならない。・・・最先端のテクノロジーを使って自動化した飛行機がエラーをなくしてくれるわけではなく、起きるエラーの性質が変わるだけだ。(258ページ)

機長権限とパーキングブレーキ

航空業界の強靱さと安全を保ってきた要素に一つに“機長権限”という概念がある。この意味は、機長は職業倫理の範囲内において自身でプロとしての判断を下す自己裁量権が認められているということだ。・・・優秀なパイロットの考え方はこうだ。機長が最も優先すべき最大の責務は、安全を確保することだ。私たちはよく言う。「我々にはパーキングブレーキという武器がある」。安全な飛行ができると機長が確信しない限り、飛行機は出発しない。(260ページ)

チームリーダー

チームの雰囲気を良くするのも、機長としての私の役目だ。私は話しかけやすい人物でありたい。客室乗務員にはこれから数日間、私の目となり、耳となってくれるように頼んだ。重要だと思うことでコックピットの私がじかに見聞きできないものはなんでも教えてほしいと。それから彼女たちが仕事をするうえで、機内食・飲料の積み込みや機内清掃でもなんでもいい、必要なことがあれば教えてほしい、私にできることがあれば手伝うつもりだからと伝えた。(59ページ)

誠実さ

「“誠実”っていうのは、面倒なときでも正しいことをすることだよ」誠実さは私も含めパイロットの仕事の中核だ。(316ページ)

残された時間はわずか3分

何事もなく離陸したジェット旅客機、離陸後2分後に渡り鳥の群が航空機に衝突し両エンジンが停止した。その時の高度914メートル、1分間の下降スピードは300メートル、つまりは3分程度しか猶予は無かった。

機長はハドソン川への着水を選択した。コンピュータがその判断を行うことはできない。自動化されたとはいえ、最終判断は人間にしかできない。

ジェット機に乗る時機長と顔を合せることはない。機長は乗客を安全に到着させるただそれだけの為に、人知れず任務に励み続けている。最大の任務は決断することである。

蛇足

 

リーダーとは決断する人

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