毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

どうして電車で他人と離れて座るか?そこから見えるのは抑制に安住する姿勢~『つながる脳』藤井 直敬 氏(2009)

つながる脳 (新潮文庫)

 藤井氏は脳の社会的機能を研究、2頭のサルの序列確認行動を手がかりに、脳の「他者とつながりたい」本質をとらえ、さらにその中核となる心の姿へと迫る。(2009、文庫は2014)

 

 

社会的脳機能の実験

 

 

上下関係の決まっていない2頭のサルを向かい合わせて座らせ、競合関係におく。どちらのサルも、はじめは自分が上位のサルであると思い強気に振る舞うが、ある時点から一方のサルが徐々にエサに手を伸ばさなくなる。それ以後、その抑制はより強くなり、エサを取らないサルが下位、もう一方が上位のサルという社会的関係が固定する。(100ページ)

 

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社会性とは抑制

 

 

サルたちは自分の中の社会的ルールに照らして、自分より強いと知っているサルが隣にくれば自分を弱いサルモードの切り換えて振る舞います。そして、自分より、弱いサルがやって来たときには、強いサルとして振る舞います。・・・それでは強いサルから弱いサルに移行したときに発現される機能とは何でしょうか?それは今回の実験の結果から見えてきた通り、行動の「抑制」であると僕は考えます。強いサルに対して、自己の欲求を抑制することが彼らの行動から私たちが見ることができる最大の変化です。・・・つまり抑制というものが社会性の根本にあるのではないかというのが、この実験を通じて到達した僕の考えです。(128ページ)

 

 

抑制以外の働きかけをしているか?

 

 

実際に現在の私たちの日常生活を振り返ってみて、はたして戦略と呼べるような知的活動を行っているヒトは、どれくらいいると思いますか。僕はほとんどんヒトは、戦略的社会操作を一度も行わずに一生を終えるのではないかと思うのです。むしろ、私たちが普段使っている社会的操作と呼べる技術は、「戦略」ではなく「戦術」にあるのだと思います。(249ページ)

 

どこに座る?~「可能な限り他人の空間に入り込まない」

 

 

他者を自分の認知空間に取り込んで表象する作業は、他者の行動が予測困難であることもあり、認知付加として非常に高い作業が要求されます。・・・脳から見ると、お互いわざわざ疲れることはやめて、相互に適度な間隔をとってリラックスしましょうよということになります。(246ページ)

 

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みんな誰かとつながりたい

 

 

ヒトは、他者との関係性構築がうまくいかないときは不安を覚えるし、逆に満たされたときは喜びを得ることができます。この喜びを得るためには、自分の権利を多少譲っても、他者との関係性を構築したいという欲求があるのかもしれません。・・・僕たちの脳の一部に他者とポジティブな関係性をもちたいという、関係性欲求機能があるのもしれないのです。(254ページ)

 

抑制だけではいけない

 

確かに抑制を基本に社会生活を行えば問題を起こす可能性は減る。それでは電車の中で永遠に離れて座っていられるか?もし仮に地球に2人しかいないとして、それでも話をしないであろうか?何らかの社会的目的を達成する為には他者に働きかける必要があり、それを戦略的社会操作と言うのであろう。

我々の日常は、他人とつながることを抑制する戦術に安住しているだけかもしれない。

蛇足

 

他者とつながるには共有できる表現が必要。

こちらもどうそ

 

kocho-3.hatenablog.com