毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

新しいアウトプットはインプットの量を増やす。16世紀科学革命の教えてくれる事~『印刷革命』ELアイゼンステイン(1987)

印刷革命

アイゼンステインは印刷の歴史を研究、活字文化の起原を探求し、20世紀のメディア革命の理解にも深い示唆を与えるであろう。 (原著は1983年、翻訳は1987年)

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コペルニクスは1974年天文学者兼印刷者レギオモンタヌスの重要論文の出版予定目録を入手していた。

 

 
 
フランシス・ベーコン「ノヴム・オルガヌム」(1620年)

 

 われわれは古代人が知らなかった三つの発明、すなわち印刷技術、火薬、そして羅針盤の発明に、他の何にもまして顕著に見られる勢いと影響と成果を心に留めるべきである。この3つは全世界の外観と状況を一変させた。(20ページ)

A・G・ディケンズ(20世紀のロンドン大学歴史研究所長)

 

 1517年から1520年の間に、30刷を重ねたルターの著作は、おそらく優に30万分を超す売れゆきを示しただろう。・・・印刷機がなければ、このように大規模な改革の達成はまず不可能だったであろう。・・・ルター主義はその出発点から印刷物の申し子であり、この媒体によってルターは、ヨーロッパ人の心に正確で一定不変な根深い刻印を押すことができたのであった。(157ページ) 

印刷物の増大と人間がインプットできる知識の拡大

 

 印刷本の出版によりある一つのテクストがさらに数多く「普及、拡散」して行く一方で、すでに普及、拡散していた様々なテクストが個々の読者のために集められていく動きもあった。・・・表面的には古色蒼然とした既刊書の複製を行っているように見えても、印刷業者は従来の写字生に比べ、豊かで変化に富む内容の勉学の糧を提供していたのである。(48ページ) 

コペルニクスは膨大な観測データを書物から入手

 

コペルニクスが、古代の天文学に欠陥を見出し修正の必要を痛感したのは、何らかの天文学的発見がなされたからでも、目新しい天文観測が行われたからでもなかった。・・・ところがコペルニクスの誕生する少し前から、図書の生産方式に現実に起こった革命が、天文学者の利用しうる学術書や数学諸表に影響をおよぼし始めていた。・・・1480年代からそれまでの間に天文学に影響を及ぼすような「目新しい観測」は一つもなされてはいない。ただ過去の観測記録を伝達する方法に大革命が起こったのである。(224ページ) 

本を比較検討し、コペルニクスは過去の矛盾にたどり着く

 

数々の記録や参考文献を集め、しかも同時にそれを書き写す手間をかけなくても研究ができるようになったこの新しい状況の認識がおろそかになってはならない。変則によく気付くようになったこと、旧来の体系にあきたらなくなった理由を説明するには、一度にひとりで目を通すことのできる書物の幅が広がった点を強調することがとりわけ重要と思われる。(278ページ) 

我々の常識

 

グーテンベルグの印刷革命、そして宗教革命への影響は西洋社会では良く知られている。(私は今更ながら本書で出典を知る)

本書では印刷革命がそれに留まらず科学革命にも大きな影響を与えたと主張する。一人の人間が手にできる本が飛躍的に拡大、そしてそれが新しい自然科学の体系の成立を促した。コペルニクスは先立つ天文学者であったレギオモンタヌスの出版目録を入手、これにより過去の天文学の遺産を手にする事ができた。

印刷革命によって様々な概念、情報が時と空間を越えて一人の人間に集積し、そして新しい概念が逆に時と空間を越えて他の人々に伝わっていく。印刷革命はこのサイクルを加速した。

蛇足

 

インプットを増やせば新しいアイデアが出てくる。

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