毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

1万年前、定住を開始、それではその理由は?、縄文土器が教えてくれる非常識~『人類史のなかの定住革命』 西田 正規 氏

人類史のなかの定住革命 (講談社学術文庫)

西田正規氏は自然人類学。霊長類が長い進化史を通じて採用してきた遊動生活。不快なものには近寄らない、危険であれば逃げてゆくという基本戦略を、人類は約1万年前に放棄する。1986年単行、2007年文庫化

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本当に定住生活の方が有利か?

 

遊動生活者が遊動するのは、定住生活の基盤維持に十分な経済力を持たないからであり、だから定住できなかったという見方が隠されている。すなわちここには、遊動生活者が定住生活を望むのは、あたかも当然であるかのような思い込みが潜んでいるのである。(17ページ)

 

浮動生活には数千万年の伝統

 

 一方で、浮動生活のできる経済状態に置かれれば、定住生活民はすぐにでも浮動生活ができるか、と問うてみるべきである。すでに1万年の定住生活の伝統を踏まえて生きているわれわれにはそれは容易なことではない。それなら同じように、浮動生活にも数千万年の伝統があることを考えねばならない。その間に、人類以前の祖先からホモサピエンスまでの進化がおこり、浮動生活を前提に発達した肉体的・心理能力的、あるいは社会や技術システムがあったわけである。(63ページ)

 

本書は常識に挑戦する。

 

常識の破壊①~人類は数千年に渡る浮動生活で高い知性を獲得していた。

 浮動生活を数千万年続けたのはメリットがあったからである。移動できることは嫌な事から逃げられる事であり、移動する事は新鮮な情報を享受する事である。浮動生活を続けながら人類は既に高い知性を獲得していた。

常識の破壊②~農耕開始より定住革命が重要

農耕が始まったから定住したのではない。わずか1万年前、浮動生活のメリットを放棄して、定住に踏み切った事が人類の歴史で大きな区切りである。これを西田氏は定住革命と名付ける。

常識への破壊③~我々の現代的な課題は1万年前と変わらない

 

現代の問題は環境とエネルギーの問題である。浮動生活ではこれらを移動する事で解決してきた。そして現代は人類が定住革命以降環境問題とエネルギー問題を解決する途上である。

縄文文化は定住化への精神的適用のシンボル

 縄文時代は地球規模の地球温暖化の中の定住が開始された時期である。西田氏は縄文遺跡の発掘から定住が開始されたが農耕が開始されていない時代と見る。

縄文時代人が、精根を込めて土器に装飾し、さまざまな呪術的装置や道具を持っていたことの本質的な意味は、それを作る過程において心理的エネルギーを費やし、単調であった空間にひづみを与え、また周到に準備された儀礼の演劇的効果によって、目眩にも似た心理的空間移動を体験することにあったのだろう。(33ページ) 

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縄文土器 - Wikipedia

我々は常識に挑戦しなければならない

浮動生活は空腹と飢えに満ちた動物の様な生活ではなかった。そして我々は定住生活こそが理想の生活であるという常識に囚われている。定住し富の蓄積を図った事で人類は人口を増やしてきた。しかし環境、エネルギー、今でも多くの事を解決できていない。我々は浮動生活と定住生活の違いを認識し、それを俯瞰して両方の様式を受容し、そして行動する必要がある。

 

最初の行動は縄文土器を眺めて、「どうして定住の方がいいと思ってきたのか?」思考する事。

蛇足

我々は定住という「病い」を始めてしまった

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