横顔に正面から見た目が描かれている?~江戸時代までの顔の捉え方、『ヘンな日本美術史』
山口氏は画家、終生 「こけつまろびつ」の破綻ぶりで疾走した雪舟のすごさ。2012年刊
雪舟の恵可断臂図(1532)
恵可断臂図をみた時にまず思ったのは、この絵の「莫迦っぽさ」というのはどこからくるのあろうと云う事です。「莫迦っぽさ」などと言うと怒られてしまうかもしれませんが、何やらドデかいものが盛り込まれていそうだけれども、尺を測りかねる所があって、口をあんぐり空けてぽかんとするしか他ない-そういう対象としての形容です。もちろん、禅僧が達磨大師を描くのですから、大真面目には違いないのでしょうけれども、見れば見るほどやはりヘンです。
恵可断臂図(えかだんぴず) | 京都国立博物館 | Kyoto National Museum
一つの絵に二つの解像度
洞窟の岩肌のうねりと人物の平面的な感じが同じ空間にあると云うのは、普通の考えればおかしい訳で、これができてしまう絵画意識は凄いものです。全く異なる解像度の組み合わせ、喩えれば、背景はハイビジョン放送の電波で送りながら人物の特徴は手旗信号で伝えようとしているようなものです。(102ページ)
部分によって視点が違う
達磨と恵可は両者とも横顔であるにもかかわらず、目は顔の正面から見たように描かれています。・・・目だけでなく、鼻、耳、輪郭の全てが概念の上で組み合わされていると言うことができそうです。109ページ)
雪舟の見た概念によって構成されている
これは要するに雪舟の頭の中でできた絵であって、先程の(解像度の点で)顔と手と衣装では描く際の力の入れようが異なるのと同時に、描いている方の意識が部分部分によって全然違うのです。
写真の登場によって西洋的リアリズムがやった事
西洋の画の世界はあれだけ真に迫った絵を描く事ができながら、写真が出てきた途端にその部分を芸術から放り出してしまうのです。・・・その頃の西欧が、ジャポニズムによって日本という進行形の前近代を取り入れたには実に必然だった訳です。・・・あれだけの写実主義を築き上げながら、一小国の美術に目を向けた西欧の感受性に目を留めるべきであり、自らの屋台骨をぐらぐら揺らしながら方向転換を図った行動こそ見るべきなのです。(184ページ)
西洋的リアリズムを知る前の日本人の見方
江戸時代の日本人は横から見た顔の絵を描いても目が正面を向いている事に気づいていなかった。それは絵の必要十分条件に素直に従っていたからであるという。必要十分条件は画家の見た概念を伝える事である。
雪舟は横顔と正面から見た目を組み合わせ、衣装を大胆に省略、背景を丹念に描く。これらの違う視点を1枚の絵に持ち込む事で、達磨と恵可の緊張感のある関係を描く事に成功していると描く。
人間は見たいものを見て、見る必要の無いものは認識からこぼれおちる。日本画はそれを無意識のうちに伝統的画風としてきた。一方西洋は印象派以降、自ら絵画のロジックを変更させた。どちらが優れている、という議論は意味が無い。
蛇足
日本と西洋、違いが革新を生む
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