毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

謎の蝶が教えてくれる事、"生きるとは限界に挑戦する事"~『謎の蝶 アサギマダラはなぜ海を渡るのか?』

謎の蝶アサギマダラはなぜ海を渡るのか?

栗田氏は内科医、そしてアサギマダラの研究家。 アサギマダラはタテハチョウ科の蝶で、大きさはアゲハチョウほど。重さは0.5グラムにも満たない軽い蝶だが、春と秋には1000kmから2000kmもの旅をする。2013年刊

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10万頭以上のアサギマダラマーキングし、8頭のに再会

 

日本列島を春は北上、秋は南下の旅をする。その移動距離は2000㎞にも及ぶ。この蝶の翅(はね)にマーキングを施して放し、移動先で再捕獲する調査には全国で多くの人が参加して、渡りの詳細を知ろうとしている。筆者は過去7年間に最多の標識を行ない、放蝶したアサギマダラの総数は十万例を超えた。現在までに他の方々によって(放蝶した)福島県から鹿児島県までの22都道府県で百頭以上の行方が再確認され、自分自身では長野、愛知、大分、鹿児島の4県で計8頭に再開できた。(192ページ)

 

海を渡る蝶

 

 

台湾から本州までの弧状の領域が陸つながりであった時期、地球が温暖化した時期、海没して南西諸島ができた時期を物語に上手に重ねることができれば説得力を増します。・・・最後の氷期は約1万年前に終わりました。その結果、海面が上昇して(琉球弧の)3つの領域は海に沈んで、多くの島々が残ったのです。・・・この物語が事実ならアサギマダラはわずか1万年前の間に「海を渡る」ことに適応したのです。

 

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アサギマダラは確率分布で表現できる雲

 

 

13万頭を越えるアサギマダラをマークし、行方を推測・追跡・確認してきた筆者は「分析的な研究では事実の断片しかわからず、蝶の移動先すら予測できない」と思います。・・・まとまった蝶の集団が、あたかも「人間が地図を読み、気象図を読む」様にして、地球上のかなりの範囲を移動できます。・・・アサギマダラ集団は心を持った雲が移動している様なものです、そのたびは偶然に動く「物」の移動とは異なり、心を持った雲が動き、日本列島を群雲のように動くのです。(237ページ)

 

アサギマダラを数学で考える事の先に見えてくる事

 

 

数学を探求するには、物質の知識も、物質的な道具すら不要なのです。数学を探求するのは何が必要なのでしょうか?それは一言で言えば「心」です。・・・大事な事は、物質の世界が物理学のさまざまな法則で成立しているように、心の世界にも法則があるのではないかということです。・・・アサギマダラが確率に従う世界の中にいながら、いつも確率を越えようとして生きている存在である」ことを示唆していると感じられるからです。(240ページ)

 

世界にはこんな愉しみもある

 

自分が放蝶したアサギマダラに再開する事がまずもって驚く。アサギマダラの夏の群生地である福島で1カ月に渡りマーキングを続け、アサギマダラを追いかけて秋に南下していく。福島から最南端の台湾まで、ざっと2000㎞。アサギマダラを追っかけて7年以上、著者はこれを趣味として取り組まれている。こんな愉しみをしている人に感激する。趣味は人生そのものである!

生物とは確率を越えて生きる心を持った存在

 

著者はすべての生物が「確率を越えようとして生きている存在」であると言う。すべての生物が同じ法則で目的に向かって生きているという。同じ法則は確率としての数学で表現され、これを別名「心」だと解釈する。アサギマダラの研究によって唯物論と唯心論の交差を見出す事になる。そうだったのか!と感じる一瞬である。

蛇足

生きるとは限界に挑戦する事

 

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