毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

エントロピー最大をビジュアルで観た事がありますか?~書評「データの見えざる手」

データの見えざる手: ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則

日立製作所中央研究所で2006年に開発されたウエアラブルセンサ「ビジネス顕微鏡」による人間行動の研究が、いま、人間・組織・社会の理解を根本から変えようとしている。2014年9月刊行。

矢野氏はウェアラブルセンサのデータから「人間の活動もまた、分子の熱運動と同じ法則に従う」と主張する。 

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下図U分布とはボルツマン分布の事

 

ボルツマン分布

 

 空気にせよ、水にせよ、世の中のあらゆる物質中での原子や分子の熱エネルギーの分布に発見されている。空気にせよ、水にせよ、世の中のあらゆる物質のなかでは、原子が熱エネルギーによって絶えず動いている。たとえば、空気の約5分の1は酸素分子からなるが、この酸素分子は熱によりそれぞればらばらな向きに運動している。・・・運動のスピードもそれぞれ異なり、高速で運動しているものもあれば、低速なものもある。(28ページ)

 

 

気体のランダムな動きをモデル化する

 

30×30のマス目上にばらまかれた玉は正規分布している。2つのマス目をランダムに選んで、あるマス目からあるマス目に玉を1個移す。このやりとりを10万回行う。上の図がスタートの正規分布で下の図が10万回後。下の図が運動方向・スピードのばらばらな原子の運動をモデル化。

 

 

 

私はエントロピー最大を均一と誤解していた。

 

 

 

ボルツマン分布のビジュアル化

 

 

気体中では、分子同士が常に衝突しあい、その際に持っているエネルギーのやりとりが行われる。マス目間の玉のやりとりの繰り返しをこのことを表現したものと考えれば、分子の持つエネルギー分布が・・・ボルツマン分布になるのは無理なく理解できる。結果として、この右肩下がりのU分布では少数のマス目に玉が集まっている。(36ページ)

 

ボルツマン分布はエントロピー最大

 

 

エントロピーの大きい状態とは、もっと自由に、大胆に、資源(エネルギー)を分配した世界である。(正規分布の一様にランダムな世界とはむしろ真逆な状態である。実はエントロピー最大になる分布こそがボルツマン分布である・・・。(ボルツマン分布は)正規分布よりずっとばらつきが大きく、まだら模様が形成された世界、制約から解放されて、自由に資源のやりとりを繰り返した世界である。唯一制約されるのは、トータルの資源、エネルギーの総量である。(54ページ)

 

身体運動データにボルツマン分布を見出す

 

一定時間に腕が何回動いたか、という分布をウェアブルセンサを使って記録する。運動回数の分布は原子と同じボルツマン分布が現れる。身体運動はエントロピー最大、すなわち自由な行動を行っているという事になる。矢野氏は「人間の行動は自由であることによって制約されている」(61ページ)と表現する。例えば気体がボルツマン分布をしている事はエネルギーがランダムな運動で保存されていて、そのままではそれを取り出す事はできない事を意味する。加熱か冷却かによってエネルギーが変動させられる。同様に人間の運動のうちある部分はアウトプットを生み出さないまだら模様な運動という事になる。

アウトプットを生み出すには

 

まだら模様の割合を減らし、指向性を持った運動を増やす事でアウトプットを増加させらる、事になる。矢野氏は「時間をひとまとめにして」重要な成果を生み出す事が重要だと指摘をする。言ってみればメールのチェックは集中的に行ない、運動の方向性の定まらない動きを削減する事で、アウトプットを上げましょう、という事をデータで証明した。

蛇足

エントロピー最大は均一ではなくまだら模様。

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