毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

我々は脳がすべてをコントロールしていると思っていないか?~書評「粘菌~偉大なる単細胞が人類を救う」

粘菌 偉大なる単細胞が人類を救う (文春新書)

中垣氏は粘菌行動を物理的法則から分析しようとする「物理エソロジー」の研究家。

 

 単細胞で脳も神経もなく、大きさも性別も、生物学上の分類さえ融通無碍な生物・粘菌。その粘菌が人間でも難しい迷路を解き、現代の発達した交通網をも独自に作り上げてしまう。2014年10月発刊

動物行動学と物理の融合

「単なる物質が集まることで“生きたシステム”に化ける」のが単細胞生物の面白さです。生き物であるのに、あたかもモノのよう。それならば、単細胞生物の賢さは、物質の運動法則から説き明かされて然るべきです。(9ページ)

どうして粘菌は迷路の最短問題を解決できるか?

(粘菌が)この体形が一匹としてつながっていながら、餌を食べるのに都合がよかったからです。つながりを保つ為の資源は最小であり、また、細胞内の物質を輸送して情報交換していると思うと、太く短い管はコンダクティビティ(導通性)が高いという意味で効率的なのです。(131ページ)

粘菌の「知性」は物理的な最適法則

粘菌の迷路解きで真に注目すべきところは、物理的にごく普通にある最適化現象を、どのような機構で自分の採餌行動に結びつけたかということでした。・・・生物の情報デザインとは、かようなことの追求のように思われます。情報処理アルゴリズムとして生物らしさを感じるのは、粘菌の「情報システムデザインが自律分散型処理になっている点にありました。各管は、自分のところの流れだけに依存して太さを変えます。それぞれの管はてんでんばらばらに太さを変えるのに、全体としては最短経路ができます。・・その意味で、管は「ゆるく」相互作用しています。(134ページ

 
粘菌は単細胞と多細胞の間

粘菌は変形体というアメーバ状になる。そのアメーバ状の体の中には細胞核が多く存在し、多核体の単細胞生物に分類される。つまりは多細胞生物と単細胞生物の境界に位置し、2億年前に誕生した。細胞レベルでは物理的、価格的な反応で説明できる。そしてそれが多細胞となった時は周囲の細胞と調和していく。粘菌はこれを単細胞で実現している。

粘菌は知性を持つか?

粘菌はセールスマンの最適経路問題を解く事ができる。良く知られる様に最適経路問題はスーパーコンピュータを使っても計算が収束せず解が導き出せない事が知られている。粘菌は簡単なアルゴリズムを分散処理する事で解に致る。それでは粘菌は知性を持つと言えるか?f:id:kocho-3:20141102085907p:plain

粘菌は管の太さ(D)と距離(L)、そしてその変化率だけを見て経路を判断する。

粘菌の数理モデル | 数学検定・算数検定ファンサイト

人間もまた物理法則の積み重ね

私は粘菌に統一的な知性があるとは思わない。しかし人間の"知性"は粘菌の行動に擬人化した知性を見出している。我々の"知性"は本当知性と呼べるのであろうか?人間の知性は単に物理法則の積み重ねの上に立脚しているだけでなないか?統一的な知性などないのではないか?これらを明確に否定する事は出来ない。人間の知性もまた分散型な情報処理に依存する部分があり、すべてを前頭葉が決めている訳ではない。

蛇足

粘菌は分散型コンピュータ

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