毎日1冊、こちょ!の書評ブログ

2013年8月から毎日、「そうだったのか」という思いを綴ってきました。

自分の欲望と思っているものは他人から与えられた?~45年前と今の社会の共通点

エネルギーと公正

イヴァン・イリイチ1926 - 2002)は、オーストリア、ウィーン生まれの哲学者、社会評論家、文明批評家である。現代産業社会批判で知られる。

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第1章エネルギーの公正:エネルギー危機とはエネルギー過剰による社会的非効率が本質

社会が崩壊の危機に晒されてのは、燃料の不足によるものではなく、また有効エネルギーの浪費や汚染を招く使用法や不合理な利用方法によるものではなくて、大部分の人間を墜落させ、略奪し、欲求不満に陥らせるほどのエネルギー量を産業が社会に詰め込もとすることによるものである。・・・熱量は過剰にならず、適量を示す範囲内にどどまってこそ、生物学的にも社会的にも健康に役立つのである。・・・エネルギー危機は、福祉は人間が操るエネルギー奴隷の数で決まるという幻想が消え失せたときに初めて消え失せるのである。(31ページ)

エネルギー過剰の事例~現代の交通

高速度は少数の人間の時間を巨額の値で資本化するが、その場合、不合理にも、万人にとっては時間の費用は高くなるのである。ボンベイでは自動車をもっている人はごく少数に過ぎない。この(自動車を持っている)人々は午前中にある地方の中心都市まで行けるのであり、週に一度はそこへでかけていく。二世代前ならば、それは1週間を費やす年に一度の旅であった。現在ではでかける度数が増えて、そのことに以前にも増して時間を費やしているのである。・・一つの社会のなかで生じる運輸に関連した複合的な時間消費は、少数の人間がスピーディーな移動で行う時間の節約よりもはるかに急速に増大しうる。運輸期間の利用度が増すにつれて、交通は際限なく増大する。(34ページ)

第2章~創造的失業の権利、序より
  1. 商品が豊富であること自体が使用価値の自律的な創造を麻痺させてしまう商品・市場集中生の社会の性格を説き明かす、②そのような社会において専門的職業が社会のニーズ(欲求)を形づくることによって演じる隠れた役割を強調する。③ある種の幻想を暴露し、市場全体を永続化させる専門家の権力を粉砕するある種の戦略を提案する。
③のある種の戦略とは創造的失業

家事、手仕事、自給農業、基礎的な技術、知識の交換などは、暇な人間か非生産的な人間かごく貧しい人か大金持のすることに転落してしまったのである。・・・今後、社会およびその文化の質は、その社会におかる無職の人間の地位によって決まるであろう。・・・それは欲求不満をもつ労働者が、商品の生産を招く活動の外で人々が有用な働きをする自由を組織的に守る社会である。(166ページ)

原書は1979年、今から45年前の刊行

イリッチは一環して専門家といわれる人によって欲望が他律的に創られていると説く。資本主義は人の欲望を充足する事によって利益を得る。一方で人の欲望を資本主義自らが刺激して膨らませる活動が肥大化しているのが現代。ここでも資本主義キーワードとなる。イリッチが執筆してから45年、時間の経緯によりディテールが消えて現在と共通する社会構造がリアルに認識できる。

蛇足

自分の欲望は誰によって創られたか?